ymd

キングスマン:ファースト・エージェントのymdのレビュー・感想・評価

2.4
大人気スパイアクションシリーズの通算3作目にして1作目、2作目のプリクエル。
時代を現代から第一次世界大戦期にまで遡らせ、キングスマン誕生の秘話を描いている。
監督はこれまでと同様にマシュー・ボーンが続投。

今までのキングスマンは非常に悪趣味でスタイリッシュな荒唐無稽のスパイアクションといった風体が持ち味だったのだけれど、本作はそうした特徴は極めて希薄であり、史実をモチーフにしたトンデモ戦争映画になっていることに驚く。

シリーズの魅力である(というか007から綿々と続くスパイモノならではの)アイデアに富んだ武器・ガジェットの類はほとんど登場しないし、マシュー・ボーンのお家芸である露悪的なバイオレンス描写も皆無に近い。

前編を通して靄がかった画面の色調とリンクしたように地味でシリアスなトーンが続いており、前作までにおけるキッチュな悪ノリを期待して観ると肩透かしを喰らうことになるだろう。

まるで『1917』かのような塹壕シーンにはそれなりの緊迫感は宿っているけど、でもそれはキングスマンに求めているものなのかといえばそうではないだろう。
“らしさ”は観衆の一方的な押し付けなので、マシュー・ボーンは新たな視点で本シリーズを拡張させたかったのかもしれないけれど。
だとしたらもっと徹底的に踏み込んで欲しかった。

戦争を題材にしたジャンル映画として考えるとあまりにも浅薄で重みが足りない。

もう一つ本作が致命的にマズイのが、本シリーズにおいて欠かせないはずのスター性のあるキャラクターが不在であることにある。

1作目でいえば主人公であるエグジー(タロン・エガートン)とハリー(コリン・ファース)が素晴らしかったのは言うに及ばず、サミュエル・L・ジャクソンやマーク・ストロングといった剛腕役者たちの華によって物語が数段アップグレードしていたわけだけど(2作目はジュリアン・ムーアが圧倒的!)、本作は全くもってそのレベルに達しているキャラクターがいないのだ。

主演のレイフ・ファインズはたしかに名優だが、オックスフォードというキャラクター自体に面白味がなく、『キングスマン』という人気シリーズの看板を背負うには馬力不足と思わざるを得ないのである。

ポリー(ジェマ・アータートン)とショーラ(ジャイモン・フンスー)などは味のある存在なのに全然活かしきれていないし、取ってつけたように演出の一素材として片付けてしまっている印象が拭えないのが勿体無い。

そういう意味では本作はリス・エヴァンス演じるラスプーチンの一人勝ち状態であり、彼の怪演こそが良くも悪くもキングスマンのイズムを継承しているというか。

だからこそその先の尻すぼみ感にガッカリしてしまったし、シリアスとコメディのバランスが悪いので全体的に中途半端になっている印象を受けてしまうのだ。

前作が正直言って全然良くなかったので本作の方向性自体には可能性を感じたものの、面白い映画かと問われれば僕はノーという答えしか持ち合わせていない。

1作目が公開された時は、その痛快さにヤられて興奮してものだけど、すっかり期待できないコンテンツになってしまったな。
ymd

ymd