SPNminaco

ザ・ピーナッツバター・ファルコンのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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釣り船で出発し、やがて手作り筏で川を下る旅。南部の景色や人々がまるでマーク・トウェインの世界、もちろんお尋ね者ザックとタイラーはトム・ソーヤーとハックルベリー・フィン。映画はやや懐かしい時代設定(90年代?)で、ささやかで優しい神話というかトールテール調だ。最後もまた脱走というエンディングもそれらしい。
そしてアメリカのお伽噺、トールテール(ホラ噺)といえば、プロレスなんである。ザックが憧れるヒーローは古いビデオの中のプロレスラー(リック・フレアーと同時代)。だが、出会った彼は現実の姿。それでも、再びプロの顔に切り替わる瞬間にグッとくる。トーマス・ヘイデン・チャーチが実にぴったりで、試合シーンでは実際のレジェンド・レスラーも花を添えて盛り上げる。このバックヤード・プロレスがまた何とも良い。パンツ一丁で飛び出したザックはやがてリングネームを名乗り、マスクにコスチュームでヒーローに変身する。“アトミック・スロー”でぶん投げられた身体はどこまでも飛んでいく。プロレスとはそれを信じる者にとって神話であり、物語なのだ。
一方、汚れた身なりもそのままなタイラーは人知れず過去の罪悪感を抱え、更に背負ってしまった罪から逃げている。火は罪、川や水は贖罪の象徴。兄のようにザックを引っ張りながら、彼に導かれるタイラー。家族に見捨てられたザック、家族を失ったタイラーとエレノア。強くなりたい、許されたい者たちが海を目指し、家族になっていく。例え夢見た場所に着かなくても、既にお互いが家である。
ザックとタイラーが親密になるのが割とあっさりしてたけど、泣かせるようなセンチメンタル描写は出来るだけ避け、プロレスや泳ぎなど身体的にエモーションを物語り湿っぽくさせない。シャイア・ラブーフとザック・ゴッツァーゲンが交わす2人だけの挨拶、顔を触れ合う仕草、ザックの肩にもたれる後ろ姿から、台詞以上にとても自然な優しさと信頼が伝わってきた。この手の役におけるジョン・ホークスの安定感、渋いブルースやゴスペル、カントリー音楽もしみじみ。