カルダモン

ザ・ライダーのカルダモンのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.7
人馬一体。
馬は人に生かされて、人は馬に生かされている。自然と馬と人との関わり合い。

この映画の登場人物は実際にロデオで生計を立てている家族で、実名での出演だそうです。最初は知らずに観ていて、馬の扱い方がすごい自然だな〜、どんな訓練したんだろう?とか、向こうの俳優は鞍もなしで裸馬に乗れるとかすげーなぁ、とか呑気に思っていたのでびっくり。『ノマドランド 』でも実際にノマド生活者を出演させていましたね。

『ノマドランド 』でも考えたドキュメンタリーとの違い、それはおそらくナレーションがないとかインタビュー形式ではないとか構造や編集の違いもあるのだろうけど、一番の違いは答えを持たせないことではないかと思う。ドキュメンタリーは博物館や資料集のようなもので、良くも悪くも事実しか並んでいない。もちろんそこから想像できることはたくさんあるだろうし、実生活に置き換えて考え直すこともできるけれど、監督のクロエ・ジャオはむしろ割り切れるような答えに行きつかない、寄る方のない感覚を共有させたかったのではないでしょうかね。また、言葉では表しきれない家族の呼吸であったり繊細なやりとりは本人でなければ出せないバイブレーションなのだと思うし、馬を調教する場面なんてのは演技でどうこうできるものではないですからね。

落馬をすれば命に関わるロデオライダー。一命を取り留めたとしても体に障害が残るリスクは大きい。なぜ危険を冒してまで馬に跨るのか、そもそも賞金と人命を天秤にかけるような大会や名声は必要なのか。ロデオについてまったく知識のない私は疑問に思う。でも彼らの目は、この土地で生きる術として身につけたもので生きるしかないと語っているようにも見え、風を感じて、毛並みを感じて、温度を感じて、馬と人と共に生きる意志を感じる。

リリーの反応がいちいち可愛い。ブラジャーをつけたくなくてハサミでジョキジョキ切ったり、ロデオの大会に出ようとする兄に反対したり、でも応援しに来ちゃったり。言葉がとってもナチュラルで、自分も使う言葉を改めたいと思ってしまった。
風景描写も目が覚めるほどに透明で、風の揺らぎや温度まで感じるようでした。自然光が映し出す表情のなんとも美しいこと。




ところでクロエ・ジャオの次作がマーベル作品の『エターナル』だってことなんだけど、飛躍っぷりが度を越してないか?いきなりそこ行く?どんな風になるのかまったく想像つかないですね。