KnightsofOdessa

ノベンバーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ノベンバー(2017年製作の映画)
5.0
[現実と魔界が交錯するアニミズム的幻想世界] 100点(オールタイムベスト)

昨年のアカデミー外国語映画賞エストニア代表に選出された摩訶不思議なダークファンタジー。本国では有名な小説の映画化であるが、この内容で20年来のベストセラーとは国民の芸術偏差値の高さが伺える。ただ、どんな小説なのか気になるくらい文字化不可能な話なので、サルネの創作部分がどれくらいあるのかはよく分からない。幻想映画と東欧映画が大好きな私にとってはこの時点でホームランは確約されてるようなもの、あとは何点入るかなのだ。

舞台は19世紀エストニアの寒村。まず冒頭から最高にイカれてる。クラットという使い魔のような存在が牛を誘拐して別の家に届けると、主人が別の仕事を与え、それが原因で使い魔はバグって爆発する。最高かよ。ここに暮らす村人は基本的に欲望に忠実であり、厳しくなる冬を見据えた11月になって越冬のためならなんでもする。死者にすら物乞いし、すぐに魂を売り、互いに盗み合い、地主であるドイツ人伯爵や精霊や悪魔からも盗み取る。そこにエストニア的アニミズム信仰として狼男や死者が平然と画面に紛れ込み、現世と魔界が交錯する。白昼夢のような世界観である。

物語の主軸はそんな幻想世界で村の青年ハンスに恋をする孤独な少女リーナにある。ハンスはリーナの目線に気付いてはいるが、引っ越してきた地主であるドイツ人伯爵の娘に一目惚れしてしまう。彼女に嫉妬したリーナは魔女の力を借りて娘を殺そうとするが思いとどまる。やがて村に冬が訪れる。ハンスは雪だるまをクラットにして伯爵の娘を口説こうとふたりで策を練る。リーナは伯爵家から盗んだドレスを着てハンスを騙すが、雪だるまが溶けたことで悪魔との契約が終了してハンスは死ぬ。同時に娘も亡くなっており、彼女の棺を納めた白い馬車と死んだハンスが乗る黒い馬車が出会うシーンが印象深い。

サルネの撮る"白色"が非常に柔和であり、全てを包み込むような温かさと突き放すような冷たさが共生しているように思える。白が映えれば映えるほど黒の色を際立たせ始め、飲み込まれるような闇や穢れを一層強調する。モノクロであるがこその圧倒的映像美に感服してしまった。特にラストでリーナが入水自殺を図るシーンや雪だるまの語る指輪のシーンなんかは最高に黒或いは白が映えていて印象深い。

結局私は何を見たのだろうか。未だに心の整理がつかないが、大傑作であることに変わりはない。でも途中のうんこ食わせるシーンはテンポを悪くするからいらないと思う。

追記
主演の子がエリザベス・モスにめっちゃ似てた。
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