SadAhCow

メモリーズ・オブ・サマーのSadAhCowのレビュー・感想・評価

メモリーズ・オブ・サマー(2016年製作の映画)
4.6
EU フィルムデーズ 2020 でポーランドから出品された『メモリーズ・オブ・サマー』(原題:Wspomnienie lata)を鑑賞。12 歳の少年(ピョトレク)を演じたマックス・ヤストシェンプスキは本作が初主演だが、クラクフで開催された第 10 回 OFF CAMERA 映画祭で最優秀主演男優賞にノミネートされ、いきなりの出世作となった。 


物語は 1970 年代のポーランド。まだ社会主義時代の頃である。ピョトレクの 12 歳の夏に起こるいくつかの出来事を通じて、ピョトレクの心の変化を描く(と、文章で描くととても安っぽくなってしまうのが残念)。是枝裕和監督の作品が好きな人はきっと気にいると思う。あと、個人的には向田邦子の短編小説が頭に浮かんだ。

ポーランド映画もいろいろだが、故・クシシュトフ・キェシロフスキ監督作品などに代表されるように、心理の描き方がすごく洗練されている。ぜんぜんセリフがないのに、登場人物の感情が動くのがはっきりと見て取れる。

また、主人公ピョトレクの年齢設定(12 歳)というのが絶妙だと感じた。これより上だとリアクションが子供じみてるし、下だと不自然にマセた感じになる。大人の不可解さには気づいているが、それを表現できるほど大人ではないというか。大人と子供の中間点にいるときしか見えない世界が描かれる(そして、それはまったく楽しい世界ではない)。

物語の冒頭と終盤ごろで流される曲は、当時の流行歌手だったアンナ・ヤンタル Anna Jantar の『街中に太陽がいっぱい』(原題:Tyle słońca w całym mieście)という曲。ベースラインが好き。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=34&v=wChFEkCqt5s&feature=emb_logo

この歌に出てくる「夏の思い出」Wspomnienie lata という歌詞がそのままタイトルになっている。陽光に満ちた夏を喜ぶ歌なのだが、映画の序盤と終盤でまったく違った意味合いを帯びる。

ということで『メモリーズ・オブ・サマー』、非常におすすめである。
SadAhCow

SadAhCow