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The Strange Thing About the Johnsons(原題)のmのレビュー・感想・評価

4.9
「ヘレディタリー 継承」のアリ・アスター監督、映画学校時代の作品。

今作を観てよく分かったのが、アリ監督にとっての本当の恐怖は家族という逃れられない関係の中で生じる悪夢のような感情のもつれ、家族という名の地獄だという事。「ヘレディタリー」でも本当にやりたい事はそこだったんだろうな。

「ヘレディタリー」では『ある事件』によって家族の中で世にも恐ろしい生き地獄のようなもつれた感情が生じていたが、今作でも『ある感情』によって絶妙にこれまで観た事が無い類のもつれた家庭内地獄が繰り広げられる。冒頭で呆気にとられ、最後まで息を呑んで観た。

この地獄が単なる狙った悪趣味にならず観客の心を恐怖と緊張と混乱で支配し強く惹きつけるのは、愛される側も愛する側もその感情が真に迫ったものであるからだ。監督は面白おかしくその感情をジャンル映画に利用する事などせず、その感情ともつれを真摯に描く事で本物の地獄を召喚しようとする。

心理描写もサスペンス描写もこの時点で既にお見事、やはりこの監督は凄い。撮影や演技も素晴らしい。
悪魔や幽霊がいなくてもホラーという器が無くても、この監督は充分素晴らしい地獄=映画を創り出す事ができる。この人が描く家族という地獄をもっと観てみたい。
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