悪魔の毒々クチビル

The Strange Thing About the Johnsons(原題)の悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

3.8
ある夜、思春期真っ盛りの息子の部屋にノックもせずに入ってしまったお父さん。
すると案の定、息子が写真を見ながらムスコをスコスコしているではありませんか。「ま、まぁ、お前くらいの年なら普通だから…な?」と何とか茶を濁し、その場を後にする父。
しかし彼は気付いていなかった。その写真に何が、いや誰が写っていたかを。
それから14年後…



「ヘレディタリー」のアリ・アスター監督が、学生時代に製作した短編映画です。
「ヘレディタリー」は霊や悪魔的な要素と、それによって引き起こされる一家庭があらゆる面から崩壊していく様、このエグいもの二つを巧く合体させた結果生まれたとんでもない極悪ホラーでした。

一方、この作品はスーパーナチュラルなホラー要素や小難しい展開は無く、家庭崩壊のみを描いております。
なので「ヘレディタリー」が合わなかった人も、今作は割と観れるんじゃないでしょうか。

と言っても、もうこの時点であの悍ましい雰囲気造りに関しては殆ど完成されています。
開始早々一心不乱に抜きまくる息子を目撃してしまう父、という究極に気まずい空気を作り出しておきながら、その後更に別次元の居心地の悪さを生み出しちゃう辺りは流石。

個人的にそのオカズに使っていた写真も、察しの良い方は気付いているかもですが俺は最初あっちが写ってると思っていたんですよね。ところが実際にはそっちが写っていて「うわマジか…相当キツい展開になるなこりゃ」と、開始3分でズシッと来るものがありました。

何があったかは伏せておきますが、こういった厭な空気を常時醸し出すことでただ自分の家族が廊下を歩いている場面も非常に緊迫感溢れるものとなっていました。

そして溜まりに溜まった緊張が爆発するシーン、あそこは何よりもその時の母親のリアクションと行動がゾッとしました。
もうね、ここら辺から観てるこっちも怖いというよりは、これ以上深入りしたくないんですよ。
ぶっちゃけこれが長編化されたら、観るのかなり躊躇います。

「ヘレディタリー」は、監督の家庭で実際に起きた事が発端となって作られたそうですが、恐らくこの短編もそうなのではないかと思います。
一体彼の家族に何が起きたら、こんな恐ろしい作品をつくれるのでしょうか。
やはり深入りはしたくないですね。