PaoloSorrentino

ブルーアワーにぶっ飛ばすのPaoloSorrentinoのレビュー・感想・評価

ブルーアワーにぶっ飛ばす(2019年製作の映画)
2.8
試写会にて、いつも通り事前情報ゼロで鑑賞
選んで頂きありがとうございました。観れて良かったです。

冒頭のホテルのチェックアウトのシーンで夏帆が靴紐を結ばないのを撮っていたのは、この仕草だけで主人公の性格やユースケとの関係性や現状が推測できるので、好きな演出です。
優れた監督なら必ず大切なシーンで同じように靴を履くカットを入れて、仕草の変化で主人公の心情や状況の変化を表現するだろうと期待をしながら観ていました。
終盤の都会に戻る実家の玄関で、夏帆が靴紐をしっかりと結ぶのを撮っていたので、主人公はどこかなげやりだった今の生き方からコンプレックスだった過去や故郷にひとつの区切りをつけられたのだろうと、また、付いた汚れは拭かなかったので、洗い流して捨てたのではなく、重荷のような家族や記憶もそのままで生きて行く気持ちに少しなれたのかなと自分なりに解釈しました。
だからラストの演出も何の違和感もなく理解できました。

爪を切るシーンは夏帆の表情が唯一優しく穏やかで、人があのお祖母ちゃんのよな存在とあのようなあたたかい光りに包まれたような時間を持つことの大切さがしっかりと伝わって来ました。

鮪の子のシムさんは初めて観る役者で、あの独特なしゃべり方や間や表情のつくりかたが、どこまで意図した演技なのか分かりませんが、私にとって一番の発見でした。喫茶店のシーンから存在としての違和感があり、役どころを知らない始めのうちは観辛さが強かったのですが、段々とあのキャラクターになれてくると魅力に感じ、主人公とセットでしっかりと成立していました。
あの空気感を出せる役者はそうそういないので注目していきたいです。

試写会のせいか音のボリュームの調整が私には良くなかったです。
また、効果音も多用されていますが、監督のチャレンジ精神や遊び心は何よりも高く評価されるべきですが、映画に非常に大事な空気の醸成にはマイナスだったようにも感じました。

宣伝文句の、秘密の友だち、は想定する客層によりますが、観客を信頼しておらず、親切どころか余計なお世話で、そういうの、ダサいっすよ。

試写会は質疑応答が全くなかったのが残念です。
聴きたいことがあったので出待ちしようとしましたが、恥ずかしくてできませんでした。

監督がこの作品を発表する事に不安があった、とおっしゃっていましたが、この程度の表現ですら不安にならざるを得ない業界や社会の空気が心から嫌いです。表現をする能力と立場のある方々が自由に表現できなかったら、映画なんて観る価値がなくなってしまいます。
その時は、これまで数千本の映画を観て来ましたが何の未練もなくやめます。
PaoloSorrentino

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