レオピン

国家が破産する日のレオピンのレビュー・感想・評価

国家が破産する日(2018年製作の映画)
3.9
大宇(デウ)が もたないそうです・・・
(当時韓国第2位の財閥、99年にグループは破綻)

監督はこれが2本目のチェ・グッキ。原題は「国家不渡りの日」Default

ホワイトボードに書かれた社名に赤が引かれていく。韓宝や起亜といった名の知れた大企業が虫の息に。ナショナルブランドがバタバタつぶれていく。国のデフォルトまであと、、7日・・・

97年は日本にとっても嵐の年。バブルの後始末の不良債権処理に手間取る中、春先からのアジア通貨危機のあおりをモロに受け金融機関はつぶれていった。同時にこのタイミングでの消費税アップ。消費は落ち込み、以降慢性的な長期デフレ長期停滞の中にある。

韓国では87年民主化宣言以降、アジア四小龍と持て囃されるまでの急速な成長を遂げていったが足元は脆弱だった。金融機関、特にノンバンクを中心とした過大な融資は毒のようにまわっていた。

映画では、あの橋下徹にしか見えない財務次官がヒール役を一手に引き受ける。ブラインドを背に逆光の中で立ちはだかるあの威圧感。
火事が起きているときに消火器の選定をしますか?
私はこの機会を逃したくない

彼ら官僚はクライシスが訪れるといつだってこの機会を無駄にしないためになどと言って自分達が長年やりたかったことを一挙に断行しようとするのが習い性。どこの国でも同じだ。~を奇貨として作戦

ミドパ百貨店の倒産をうけ国民に一刻も早く知らせるべきだという意見にエリートパニックを起こし、混乱を招くだけだという理由で重大情報を伏せる。いや混乱しているのはアンタらだって。

清々しいのは逆張りに賭ける証券マン。徹底してカラ売り(ショート)し続けるところは『マネー・ショート』のようだが、彼の苦い表情には愛国心も見え隠れする。
今はもうけを考えている場合ではない 人生を変えるんです
 
彼、ユン代表がレストランで熱く語る。
連中は市場原理主義者です
危機を脱する方法も 財閥や大企業を助けるはずだ
富めるものを生かす改革をするはずです

きっとおかしないいわけをするでしょう まるで国民がぜいたくをしたから 湯水のようにお金を使ったからだというような 私はだまされません 決して

彼らは必ず見捨てる 大企業や財閥が生き残る方向での政策を打ってくる
私はその無能と無知に投資します

チーム長のハンにキム・ヘス(金恵秀)
チーム長を支えるのはチョ・ハンチョル(趙漢哲)と次官の女性軽視に憤るパク・チンジュ。『サニー』の子!

町工場のステンレス会社社長にホ・ジュノ(許峻豪)。妻にヨム・ヘランが。

証券マンのユン代表にユ・アイン(劉亜仁)。彼を信用してついていく老人にソン・ヨンチャン(宋永彰)。この二人『ベテラン』では財閥の親子で共演。オレンジにリュ・ドックァン。子役出身、カラテカ入江似。

パク財務次官にチョ・ウジン。IMF総裁にヴァンサン・カッセル

韓国では多くの人が97年末のIMF危機のことを「第2の国恥」と捉えているという。だがその後99年あたりから急激なV字回復をみせていった。IMFは二極化・格差社会を招いたパンドラの匣だったかもしれないが、彼らの中にはあの危機を乗り越えたという自信も大きいだろう。徹底したスリム化、蓄えたぜい肉を一気にライザップしたおかげで競争力ある強い産業を生み出せたと。携帯市場の独占もエンタメ業界の興隆もここから始まる。一度谷底に落とされたからこそ身軽になり変化の世紀を生き延びられるのだと。

例えて言うなら波紋の修行の際、師匠に蹴り落とされたジョジョ。這い上がるもののみを助ける。リサリサのあの養豚場のブタを見るような目。IMFに対する想いもきっとあんな感じの複雑なものなのかもしれない。

日本では平成の間、改革を叫ぶ勢力は現れては消えていった。だがその内実は?単に既得権益を軽くさせるだけの改革ならば有害だ。そもそも日本の高い安定性とドラスティックな改革が出来ない理由はトレードオフだ。いいとこどりはない。ゾンビに退場を促すのはきっと出来ないし今後もやれない。真の意味での構造改革はやっぱり黒船しかないのか。

この作品の批判の眼差しは国内に向いている。長年支配層にあった人々への異議申し立ては近年この作品以外にも数多く見られる。「なんでも疑ってかかることが大事です」この危機感だけは観る者を深く考えさせずにはおかない。

⇒97年邦楽ヒット曲
「CAN YOU CELEBRATE?」安室奈美恵、「HOWEVER」GLAY、「白い雲のように」猿岩石、「渚にまつわるエトセトラ」PUFFY、「1/2」川本真琴、「ESCAPE」Moon Child、「今宵の月のように」エレファントカシマシ、「One more time, One more chance」山崎まさよし etc.
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