ワンコ

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのワンコのレビュー・感想・評価

4.8
【語り継がれる話、「1917」にもつながる話】

映画の紹介に追加すると、一部兵士の会話は、読唇術の専門家が読み取って、アフレコにしたらしい。
そう云う意味でも生々しい。

第一次世界大戦は、大量の弾薬や、映画の中にも出てくるが、世界で初めて戦車が投入され、毒ガスによる虐殺も行われた戦争だ。
航空機も潜水艦も登場したが、まだ実験段階程度だったと言われている。

しかし、もっとも強調すべきは、国家が国民を総動員するような形で、兵士を募り、多くを戦場に送ったことだ。

これまでの戦争とは全く異なる様相になった。
少年もいた。

戦場に向かう時は、敵を鬼畜のように思いこまされる。

訓練時は、まだ、やる気満々だが、いざ戦場に送られると、そこは荒廃し切った西部戦線の塹壕で、人間のまともに生きていくような場所ではない。

そして、悪臭、死臭。

記録フィルムに色付けされたのを見て衝撃なのは、やはり兵士の血塗れの、身体の一部がちぎれたような遺体だ。
累々と積み重なっている。

ドイツ兵の傷を負った少年兵に水を飲ませてあげてお礼を言われたと語るところや、自分の父親によく似たドイツ兵士の身体が半分無かったと語る場面は、胸が締め付けられるようだ。
とても言葉では言い表すのが難しい。

そして、停戦。

捕虜にしたドイツ兵も何ら自分達と変わらない普通の人間。
結局、戦争とはこういうものだ。

砲撃を潜り抜けるように走る兵士を捉えてるシーンがある。
伝令かもしれない。
無線などない当時は、物事を伝えるのが命がけだったのだろう。

きっと、これから公開される「1917」にも通じる場面ではないのかと思った、

第一次世界大戦の、この西部戦線の話としては、ドイツ人が実体験として書いた、「西部戦線、異常なし」がよく知られているが、映画にもなった反戦の作品だ。
この作品と通じるところがあるし、戦場の人の命のちっぽけさと、虚しさが綴られる。

結局、祖国に帰っても、それ程歓迎もされず、仕事を見つけるのもままならない。
大規模な戦争の戦費は天文学的で、経済も疲弊するだけなのだ。

湯水のように使われる弾薬にも相当なコストが費やされている。
税金と国の借金で戦争を行い、それだけにとどまらず、志願して人の命も差し出せと。

第一次大戦は、冒頭で語られるようにサラエボ事件がきっかけだが、背景は複雑怪奇だ。

普仏戦争でアルザスロレーヌを取られたドイツのフランスに対する昔年の恨み。

オーストリア=ハンガリー帝国の弱体化と、東欧で起こった民族主義。

それに乗じて南進を企むロシア帝国。

南進を喰い止めようとするオスマン帝国。

イギリスとドイツの植民地政策の対立、つまり3C政策と3B政策の対立。

直接的には関係ないのに、インド、日本、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど離れた国の参戦。

この中で、二つの勢力に分かれて戦ったのだが、兵士のアイデンティティは一体どこにあったのだろう。

どこも異なるところないもの同士が、誰かに言われて憎しみあって殺し合っただけなのだ。
いつも、こうした戦争は、悲劇でしかない。

実は、この大戦の後、反省のもとに、さまざまな講和や国際連盟の設立などが行われるが、ドイツを必要以上に締め付けすぎたことや、植民地主義になんら変わりは無かったこと、国家間の貧富の格差などが残り、結局は第二次世界大戦につながってしまう。

人間はつくづく馬鹿だと思わざるを得ない。

人は、人を殺したことを、この映画にもあるようにおぞましいと感じることが出来るが、AI搭載の武器だったらどうだろうか。
限界まで殺し続けるのだろうか。

この映像の中で、彼らは老いずに生き続け、僕達に語り続ける。
ワンコ

ワンコ