つのつの

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのつのつののレビュー・感想・評価

4.8
少なくとも戦争映画でこれを超えるのはもう無理じゃね。
カラーに入るタイミングだけでもう「別格」なのだけど、実在の白黒フッテージに色を着けたという事実を何倍も上回る実験に満ちている。
数多のボイスオーバーの主は最後まで明かされず、使用されるフッテージはWW1当時のものだから映画的画角を一切持たない。画面に映る人間は全てその場限りの印象を与えながら(戦地に突撃直前のあいつの顔!)それ以降の末路、まして「成長」や「変化」なんてものはわからない。
時には、広告やポスターのイラストのみで状況を説明することさえある。
この映画は、ある1人の人間のドラマでも群像劇でもなく、WW1という一つの「事象」のみを描いてる。同じドキュメンタリー(というか最早ドキュメンタリーなのか?とすら思うけど)でも、この直後に見た「娘は戦場で生まれた」は、クローズアップ・バストショットを巧みに用いて映画的な演出をしっかりと構築していた。だから、別にそうしたオーソドックスな演出が悪いわけじゃない。本作が異常すぎるだけだ。
ワンカットや主観映像や名もなき俳優を用いて数多の映画作家は戦場を「リアル」に描こうとしてきた。そうした偉大な挑戦の果てに、ピーター・ジャクソンは遂にスクリーン上に戦場を再現してしまったのではないだろうか。勿論これ以降この手法が流行るとは思わない。一度限りの壮大な実験作品。でも、これを上回る迫力、感動を戦争映画で味わうことができるのかは、かなり疑問に思う。
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