創作に行き詰まった作家の美倉洋介(稲垣吾郎)が、新宿でホームレスの女・ばるぼら(二階堂ふみ)を拾う。奔放なばるぼらとの性生活のなかで、美倉は創作意欲を取り戻していく...みたいな話。
手塚治虫の原作は、ある時期の美大生必読書みたいなあつかいで、僕も先輩の女子デザイナーふたりから異口同音に「絶対に読め」と勧められたことを思い出した。
まず、映画は原作の「大人の寓話」的な雰囲気を生かせていなかった。寓話独特のリアリティラインや、漫画独特のリズム感。これは手塚眞のみならず、誰がやっても難しかったと思う。
いちばんの問題は、原作ではばるぼらは「ミューズ」(芸術の神)のメタファーとして描かれているのだが、映画ではそこらへんちゃんと説明し切れていないところ。寓話ではなく、たんなるアブノーマルな恋愛譚になっちゃっている。
原作では、ばるぼらに出会った美倉は創作意欲が復活し、新作にもとりくむことができた。それゆえ、あれだけ美女に囲まれた生活をしながらも、ばるぼらとの生活に耽溺し、堕ちていく、というストーリーに説得力があった。
せっかく、撮影にクリストファー・ドイル(ウォン・カーウァイ作品の撮影監督)を招いたのに、ちょっともったいなかった。