朝田

影裏の朝田のレビュー・感想・評価

影裏(2020年製作の映画)
1.8
黒沢清組の常連スタッフ、芦沢明子が撮影監督を務めているだけあってショットの精度はかなり高い。何気ない日常の風景に不穏なムードを生み出して切り取った画面の数々。特に夜間シーンの撮影は非常に良い。闇夜の中の川の流れを切り取ったショットは、「散歩する侵略者」を思わせるような、エイリアンのような松田龍平の心の闇と、その蠢きを表したような心象風景に見え、戦慄した。冒頭にある筒井真理子を車の窓越しに捉えただけのショットは、光と影の奇妙な配置が、もはや幽霊がこちらを覗いているかのような恐ろしさすらあった。また大友監督らしからぬ、生活感溢れるディテールの豊かさによってスリリングさを生み出していく手法は目を見張るし、役者陣もそれぞれ好演している。前半から中盤にかけ、同性愛者のラブストーリー、サスペンス、男たちの青春ドラマとジャンルが不安定なまま進んでいく。それ故にどこに話が向かっていくか分からない緊張感の持続が生まれる。しかし、震災が絡みだす終盤になると、ほとんど日浅の過去を人物たちが語りだす凡庸なミステリーに落ち着いてしまう。そのため非常に間延びした印象が残る。大友監督の職人監督としての生真面目さが映画を歯切れの悪いものにしてしまっている。ラスト近くで綾野剛が会心の泣き演技を披露し、あまつさえそれを長回しで収めているのにも関わらずその後も後日談を描き続けるのは単なる蛇足にしかなっていない。もう少し観客を信頼すれば傑作になり得たであろう、惜しい作品。
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