ギルド

ウィーアーリトルゾンビーズのギルドのレビュー・感想・評価

4.0
「「「「We are Little Zombies!!」」」」

両親の死で孤独になった中学生たちが音楽を通じて矜持を取り戻す青春ドラマ映画。
シング・ストリートのようなバンドの結成から演奏までの青春ドラマの面白さをきっちり盛り込んで、強烈な社会性と味わい深い映像の力で現代を生きる私たちに巨大なお土産を持たされる気分になります。私からすればこれぞ"最高の青春映画"と言える一作でした。

 私が中学生だった12,3年前から言われ続けた"家庭の裏面から見える恐怖"や"大人の汚さと欺罔"を焦点に当てた攻撃的な内容でありながら、笑えてしまう間抜けさとカタルシスによる痛快さもあるバランスが見事でした。そんなストーリーのラインに沿う演技/演出/音響など映画を色とりどりにさせる要素までもが本作の面白さをグッと上げていて良かったです。

 映画の流れとして主人公のヒカリが遊ぶ某ゲームボーイのRPG形式で物語が進み、リトルゾンビーズのメンバーであるヒカリ・イシ・タケムラ・イクコが孤児になった背景が掲示されます。
ここで家庭や社会の影の側面を通じたセンセーショナルさ/中学生特有の社会的儀式に対する純粋な気持ちを分かりやすく伝える部分が共感を持てる・・・だけではなく、本作がリトルゾンビーズの徹底した演出・棒読み演技を通じた「世論的理想と現実の暗部の軋轢」を踏まえた一抹の希望を魅せる作りにこそ、単なる青春ドラマ映画に留まらない現代を生きる私たちに響く素晴らしさがあると思います。
ここが後半のRPG形式上の大きな仕掛けとクライマックスのワンシーンに大きく生きる映画的豊かさへ機能していたのが良かったです。

 そんなストーリーの深みと合わせて映画的面白さもしっかり盛り込んでいるのも良かったです。リトルゾンビーズのチップチューン調なライブは言うまでもなくファンタジーさがある面白さがあったし、全体を通じて現実世界をゲームと見立てた独特な表現と映像的深みがある作りも素晴らしいです。
例えばヒカリがいじめられていた教室での机に刻まれたSHINEの持つ意味合いと展開されるヒカリの矜持の変化の暗示。ヒカリの教室に貼られた「夢」と「希望」の手前勝手さを暗喩する日常的な光景。ベースのタケムラが放つ嫌いな色合いと世界への同期付け。物を捨てること・物の周りの背景の明暗など・・・1個1個の演出が映画としての味わい深さを強くしている部分に棒読みの冷めた演技が独特な空気感を演出していて良かったです。加えてRPG形式に相応しいゲーム的な演出もドンピシャでした。
(あと割と20代くらいの人にはハマる演出も多いよ。林先生の有名な台詞からN〇Kのビットワールドの世界観と・・・ゲーマーな人にはディテールにハマる人も多いと思う!)

 それらを通じてリトルゾンビーズのメンバーは事故で両親を失った被害者だけではなく、大人たちの手前勝手さの被害者であることを明示するテーマ性がこの映画を面白くしているのは間違いないと思います。
世界の残酷さ/一抹の希望のかけがえのなさをクライマックスのワンシーンから逆算した演出の段取りは現代に生きる私たちへ強烈に刺さる深みがあったかな。
現に搾取する大人たちの構造/電車の暗いホームでながらスマホをする集団の"ゾンビ的"気持ち悪さは中学生からすれば気持ち悪いだろうな・・・って思います(笑)
正直なところ最後の最後のワンシーンはハッキリ言って良作か駄作で評価が判れるとは思います。
でも予告編の演出をある種のファンタジーさとして見れる人にとっては120分間みっちり、大変豊かな映画的な面白さを味わえる作品だと思います。

岬の兄妹に続いて、邦画の素晴らしい映画に出会えて良かった一作でした。おすすめです!
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