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人間失格 太宰治と3人の女たちのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

評判が悪いのでハードルを下げて観たら、これが自分には結構面白かった。世間的に評価が低い蜷川実花の映画は、どういうわけかいつも自分には刺さってしまう。

失礼ながら今まで小栗旬を良いと思ったことが一度もなかったのだが、今作の彼は間違いなく良かった。彼のベストアクトではないだろうか。いつもなら大仰で鼻につく演技は、今作では気にならないどころか主人公の振る舞いにピッタリであるとすら感じた。好き嫌いはさておき長身で癖のある声で存在感が強い小栗旬(だからこそ今までどうにも悪目立ちする印象しかなかった)を、ここまで活かしきったキャスティングは見事。衣装や髪型も相まって確かに独特の色気とダメ人間感が醸し出されており、太宰として悪くはない仕上がりだと思う。

その他も軒並み、役者がみんな素晴らしい。正妻の宮沢りえ、強かな女の沢尻エリカ、メンヘラの二階堂ふみ、編集者の成田凌、三島由紀夫役の高良健吾、全員文句無し。特に宮沢りえは圧巻だったなぁ。坂口安吾役の藤原竜也は相変わらずで笑った。

どこまでも主人公はクズなのだが、本人はそれを自覚しており、しかもそうすることでしか生きられない。そこに作家としての苦悩も乗っかってくる。ドン引きしつつもちょっと感情移入してしまう、絶妙なバランスで描かれていると思う。

あと正妻の描き方が本当に最高だった。気丈に振る舞いつつも辛くて苦しい、けれども夫の小説を誰よりも愛するがゆえに、「私達を壊しなさい。そして書きなさい。」と言ってのける。ラスト、「お前を誰よりも愛していた」と書かれた遺書を読み一人静かに泣いた後、晴れやかな顔で記者たちの前で洗濯物を干し始めるシーンが大好き。

蜷川実花といえば、という独特すぎる派手な色彩も、今作は内容にピッタリあっており違和感がまるでなかった。それぞれの女性の強さと狂気を示すモチーフとしての花や、各部屋などのセット造形が素晴らしい。ただ中盤の祭りのシーン、神輿と風車の演出はちょっとやり過ぎかな。あと全体的に台詞のボリュームに対してBGMが大きすぎるように感じた。

天才作家のクズ男と彼を愛した三人の女。こんな内容だが比較的史実に沿っているし、配慮も感じる作り。個人的には結構好きな映画だった。
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