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ロボット2.0のambiorixのレビュー・感想・評価

ロボット2.0(2018年製作の映画)
4.1
前作『ロボット』と立て続けに鑑賞。この映画に予備知識なしで挑もうとする人間がまず間違いなく抱くであろう「前作は見ておいたほうがいいの?」という疑問に答えておくと、イエスです。いちおう前作を見ていない人でも楽しめるつくりにはなっていますが、これを見ておかないと続編のキーアイテムでもある赤いチップのもつ意味がいまいち呑み込めないだろうし、後述するようにセルフパロディネタや前作ファンへの目配せ的な要素も多いので、本作『ロボット2.0』を十二分に楽しみたいよ、という人は前作もあわせてご覧になることをおすすめします。
シリーズ2作において特筆すべきはシャンカール監督の強烈すぎる個性でしょう。本国ではおそらく『RRR』や『バーフバリ』でおなじみのS・S・ラージャマウリやなんかとしばしば比較されているのではないかと思うのですが、ラージャマウリは「観客の気持ちよさのツボを研究し尽くし、そのツボを理詰めから導き出されたアクションシーンでもって突いてくる」側面を多分に持っていて、意外とロジカルだったりする。ところが一方のシャンカールは圧倒的にビジュアル偏重の人なんですね。ガワ至上主義。シリーズ2作のラストバトルに象徴されるように、「どこかで見たことあるかも…」的な二番煎じ感を煎じ詰めて煎じ詰めて抽出した要素に異様なレベルの物量やサイズ感をぶっかけることでオリジナリティあふれる何かへと作り変えてしまう。この監督の映画を見ると「あれ、ラージャマウリって意外とむちゃくちゃやってないんじゃないのか?」とすら思えてくるからすごいのよ(笑)。
さて本題の『ロボット2.0』。首吊り自殺を遂げた謎の老人がぶら下がった電波塔の周りを鳥の大群が飛び回る、とかいう不気味なオープニングシーケンスに、ええっ、これが本当に『ロボット』の続編なの!?と面食らいますが、続くシーンで出てくるのは、前作のラストで製造物責任法をかろうじて逃れ、またぞろ懲りずにロボットを作っているらしいバシー博士。今回もタミル語映画界のスーパースターことラジニカーント(『ムトゥ 踊るマハラジャ』の人です)がロボットのチッティと一人二役を演じています。老人の首吊り自殺をきっかけに、インド東岸の都市・チェンナイの半径200km以内に存在するすべてのスマホが突如浮き上がり空に飲み込まれてゆく、という奇っ怪な現象が発生。しかもあろうことかスマホたちは群れをなして飛び回り、携帯関連業者や通信大臣を次々と殺害しはじめる…とここまでスマホの画面をポチポチ叩いていて気付いたのだけどこの映画、あらすじを書くのが非常にアホくさい(笑)。なぜなら、Googleの検索フォームに「ロボット2.0 ポスター」と入力して出てくるポスターに書かれた「激闘!おじさんロボvsスマホロボ」とかいう観客をなめくさったようなキャッチコピーが作品の全てを表現し切っているからだ(笑)。絵面的にも、かの有名な『エイリアンvsアバター』の「勝手に戦え!」や『エイリアンvsジョーズ』の「もう結果だけ教えろ!」を彷彿とさせる投げやりっぷりなんだけど、その辺のZ級映画なんぞとは違って、こっちはいちおう製作された2018年当時のインド映画史上最高の予算をかけたビッグバジェット超大作てんだからびびるよなあ。導入以降の部分ではくだんのキャッチ通り、前作では敵だったおじさんロボのチッティと、環境テロリストと化した元鳥類学者パクシの怨念が操るスマホロボとの戦いが長々と尺を割いて描かれる。さんざっぱら手を焼かされた敵役が次作で味方になってくれる展開、というのは『ターミネーター2』を思い起こさせて激アツ。なのでやっぱり『ロボット』の予習はマストです。
ちなみに前作の『ロボット』では、最終的に「テクノロジーの良し悪しがどちらへ転ぶかは扱う人間のモラル次第なんだ」みたいな古典的かつ無難なテーマに着地し、ロボットの視点から人間のクソさや愚かさを逆照射していたわけですが、そこへいくと今回の『ロボット2.0』のメッセージ性はとってもアクチュアル。そのものズバリ、「スマホの使いすぎには気をつけようね」だ。もちろんそのことを「スマホ用の電波塔が発する電磁波によって鳥が方向感覚を失って次々と墜落し、結果的に鳥の個体数が激減してしまった」というパクシの口頭による報告で示すだけでは終わらない。この映画が面白いのはパクシの怨念に駆動されたスマホの脅威を直截的にモンスターとして描いているところ。スマホが集まってできた巨大なスマホ鳥や、人間を包み込んで搾り潰すスマホジューサー、ラストのスマホ怪獣にいたるまでユニークなアイデアが満載。個人的にもっとも怖かったのが『クリープショー』のゴキちゃん数万匹エピソードのオマージュであろう、スマホの大群が人間の口から侵入して腹を食い破る場面で、これは人によってはトラウマになるかもしれません。ただし、いかんせんシャンカール監督はラージャマウリと違ってロジカルな脚本が書けない人なので、テーマの着地のさせ方はあんまりうまくない。ラスボスのパクシに関しても「たしかに言ってることは正しいかもしれんけど罪のない人を殺すのは違うでしょ」みたいな感じでさしたる対話もなく退治されちゃう(笑)。ついでにスマホの電磁波がうんぬん周りの言説はほとんど眉唾だと思って差し支えないんだけども、ここに関しては「まあしょせんSFなんだから」と割り切って楽しんだ方が良いかもしれない。
って、ここまであんまり褒めてないような気がしますが、実際に映画としての出来はそこまで良くないと思う。お話に前作のようないい意味でのハチャメチャ感はないし、コミカルな要素もほとんどスポイルされている。なんだけど、それを補って余りあるほど素晴らしいのがラストのサッカースタジアムでの激突場面なんだよね。さすがにインド映画史上最高クラスのバジェットを費やしただけのことはあって、ここには豪華絢爛、驚天動地のとんでもないビジュアルショックが大挙して待ち構えている。前作の「アレ」が物量サイズともにパワーアップして帰ってくるあそこのシーンはファン歴わずか1日ながら涙ちょちょぎれもんだし、鉄クズの巨人とスマホの巨人がプロレスを繰り広げるくだりは去年の『シン・ウルトラマン』よかよっぽどウルトラマンウルトラマンしていてもはや謎の感動すら覚える。そして、充電が切れて動けないチッティを仕留めにかかるパクシに対してミニチッティことクッティがとったあまりにも卑劣すぎる作戦とは…。主人公の分身がこんなんでいいのかよ!? いやさ、いいんです。このアホ丸出しなノリこそが『ロボット』シリーズ最大の魅力なのだから。
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