Ayakashd

ジョジョ・ラビットのAyakashdのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
3.7
人を愛することと、人を憎むこと、どちらが難しいんだろう。と思った。10歳の少年ジョジョはそのどちらも、マーブル模様のように経験する。その彼のマーブル模様を、ウェス・アンダーソンを思わせるキュートでノスタルジックな世界観で、優しく、ときに皮肉に、ときに悲しく、描いた作品。なぜか冒頭で泣いてしまった。タイカ・ワイティティの、酸いも甘いも、なユーモアが沁みた。

タイカ演じるアドルフが、いい感じに情けなくて優しくて、ジョジョの性格を多分に反映している分、憎めないキャラクターだった。ヒトラーをコミカルに描いた映画は他にもあるけど、やっぱり複雑な気持ちにはなる。冒頭、ジョジョが少年らしい可愛げたっぷりにハイル・ヒトラー!!と叫びながら街を駆け回るシーン、その背景に流れる実際の党大会でヒトラーを祝福する民衆の笑顔の映像で、いきなり泣いてしまった。ドイツの人たちがどんなに…(この言葉が的確かわからないけど)無垢に、ヒトラーに心酔していたかが、ありありと心に迫って、恐ろしかった。こんなに愛らしい無垢な少年までが、完全に無垢なままで"ヘイト"の極北を信奉できるなんて。ビートルズを背景に流れるあの冒頭の、温もりに満ちたシークエンスと、それが示している最も恐ろしい歴史の対比に、いきなりノックアウトされてしまった。

愛を知っているはずの人間から、無垢に憎しみが繰り出される。

コントラストが効きすぎてショッキングでさえあった。

そのあとも、ジョジョは、親友ヨーキー、サム・ロックウェル演じるキャプテンKにスカヨハと、愛とユーモアを持った人物たちに囲まれている。イマジナリーフレンドのアドルフだって、ジョジョに寛大で親切だ。人を憎むことを本質的には知りもしないジョジョが、ユダヤ人をこき下ろすシーンは、幼さ故の微笑ましさも残しつつ、やっぱり恐ろしくもある。

そういう意味で、タイカがこの題材を選んだなら、わたしは見事に彼の術中だったと思う。

アドルフのラストシーンはちょっと複雑だったかな。ジョジョが自分が作り出した、多分に自己投影の含まれるあのアドルフを、一蹴してしまうのは、それで良かったのだろうかと思った。救いがあるような、ないような、不思議な場面だった。

サム・ロックウェルはまたジューシーロールだよなぁ。控えめに、彼の葛藤、彼の闘いを暗示するタイカのやり方が、賢くて洗練されていて愛おしかった。彼は、この映画で、オリジナルなあり方で"不屈"を象徴する役割だったのかなと思う。すごい独特なやり方で笑。あの衣装、最高だよね。サム・ロックウェル最高。

スカヨハはもう完璧以上。ナチュラルで、魅力的で、強くて、愛に溢れている。

ジョジョの子も、ヨーキーの子も、信じられないくらいキュートだった。ヨーキーが逃げながら目をこするシーン、あれアドリブなのかなぁ?演出かなぁ。あまりにも自然な子どもっぽい仕草で、心がすくんだ。実際にあの時代を経験した10歳の、本来謳歌できたはずの失われた"子どもっぽさ"を想像してしまった。あの時代の子供たち…うん。しんどいなぁ。

意外にも、観終わった瞬間にカタルシスを与えてくれるような、簡単な映画じゃなかったな。単にハートフルでもないし、単に笑えたり泣けたりするわけでもない。でも、この映画のアイディアは、こんなにも観客にいろいろな視点を喚起する。いい映画だった。
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