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ジョジョ・ラビットのkomoのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.5
第二次世界大戦中のドイツ。母親と二人暮しの少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)は、他の少年達と同じくアドルフ・ヒトラーを崇拝していた。
ヒトラーユーゲントの合宿にも意気込んで参加したジョジョだったが、訓練中ウサギを殺せなかったことを馬鹿にされ、『ジョジョラビット』というあだ名を付けられてしまう。
そんな気弱なジョジョの心の支えは、あのアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)に激励してもらう空想をすることだった。
ある時ジョジョは、自宅にユダヤ人の少女エルサ(トーマサイン・マッケンジー)が匿われていることを知る。心の中のアドルフと対話しながら彼女との交流を深めてゆくも、次第に戦争が激化してゆき……。


2020年1本目の劇場鑑賞。
アカデミー賞授賞式の放送がされた日に観に行きました。脚色賞を獲得したのも納得の大傑作です!
ピュアな少年のまんまるな瞳から見た戦争というものを痛烈に皮肉っているのですが、『戦争で人が死ぬのは悲劇だ』と訴えつつも、それ以上に生きている(生きていた)人間の優しい体温や、迸る感情がいつまでも余韻として残るドラマでした。

タイカ・ワイティティ監督自ら演じるヒトラーのおどけた姿は純粋に面白く、その躍動感はジョジョが未来に対して抱いている前途を生き写しているように思えました。
下手をすると娯楽物に登場させただけでも不謹慎と言われがちなヒトラーを、よくこんな人物像として魅せられたなあと驚嘆しました。

ジョジョの母親役のスカーレット・ヨハンソンは、優しいだけの母でなく凄まじい。煤を自ら顔に塗りつけて男を演じるシーン、敬服しました。
レベル・ウィルソンの軍人もエッジが効いていてハマり役です。
サム・ロックウェルの大尉の演技には、『ライフ・イズ・ビューティフル』のロベルト・ベニー二のような包容力を感じさせられました。

ウサギを飼っている自分としてはウサギが酷い目に遭うシーンがグロテスクだったらどうしようと不安に思っていましたが、そのシーンはほんの一瞬でした。目を逸らす暇もなく終わります。
しかし首をへし折られて捨てられるウサギという概念が、首をくくられるユダヤ人の概念と重なり、苦しくもなりました。

某人物が吊るされていることにジョジョが気づいた時のカメラワークは、恐ろしく素晴らしい演出でした。
そして、その背景で皮肉な程に輝く晴天。
このシーンでは、青い空の下のジョジョには確かな『絶望』が存在していました。
しかし決して重苦しいだけでは終わらせない、このシーンからラストまでの疾走感が本当に面白かったです。
まるで『絶望』が青い空の中を巡り、『それでも生きてゆくという希望』へと転生したかのようで。
人間の感情というのはその人の命の一部なのだ、と思わせてくれるような、生きた人間の力強さを高みへとのし上げてくれる物語でした。

息を潜めて暮らしているユダヤ人の少女、エルサの逞しさも素晴らしくて。
大戦やユダヤ人迫害は確かに史実であります。しかしそういった負の歴史の前に、ワイティティ監督は決して跪くことなくこの洗練された脚本を書き上げたのだと思うと、史実を知る/伝えるのに可能性は幾通りもあるのだな、それを探って行かなければ、と学ばされました。

私たちも歴史の前に膝を折ってはいけない。前へ進もう。
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