エクストリームマン

ジョジョ・ラビットのエクストリームマンのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
3.8
You know what I am.

鑑賞前の勝手な期待として、もっと派手でフザけた話かと思っていたけど、蓋を開けてみると普通というか、むしろ真面目寄り。題材的にハジケきれなかったのか、そもそもが勝手な期待だったのか。両方かな。とはいえ音楽はあの感じなので、やっぱり分裂しているように感じる。ジュブナイル版の『イングロリアス・バスターズ』を期待すると、寧ろ戦争末期版『フロリダ・プロジェクト』だった、みたいな。

世界を見る視点は一貫して主人公:ジョジョ・ベッツラー( ローマン・グリフィン・デイヴィス)のものになっていて、彼の倍ほど背丈がある大人たちは上半身がしばしば画面から切れたり、足首しか見えなかったりするところが周到。社会の焦げ付きが日毎に増していき、不安と倦怠、そして尚依然として残るナチスの監視に子供は驚くほど鈍感で、それ故に、特に映画序盤は何が起きても牧歌的なコメディ調で物語は進行する。ただし序盤以降はシリアスな場面が増えていき、結果として、題材に引っ張られる形で物語自体も我を失っていく。それはすなわちジョジョが現実と否が応でも向き合わなければならなくなる過程と一致する。これは順当な流れなのかもしれないけど、その順当さに乗り切れないというかなんというか。ソー:ラグナロクに満ちていた「滅ぶなら楽しく」イズムみたいなものが出せないのはある意味当然としても、殆どの場面で映画を作ってる側に真顔されてると、こっちも真顔で観ちゃうな。もうちょっと笑いたかった。

スカーレット・ヨハンソンの演じたロージーは、ひとりの人間というよりかはありし時代そのものみたいな象徴的なキャラクターだったけど、かなり地に足のついた特定の人物としてもきちんと見えるように演じていて達者だなと。家の中ですら自由にものを言えない息苦しさや苦悩をちょっとした息遣いと間で見せるところが特に目を引く。

サム・ロックウェル演じるクレツェンフェルド大尉みたいな感じで映画全体を物語って欲しかったな。役割として美味しいってこともあるけど、サム・ロックウェルならではの存在感とか雰囲気が素晴らしく、特にジョジョを見遣る視線が、キャラクターの人となりどころか、映画に登場しない背景まで想像させるような豊かさを孕んでいてグッと来る。なんというか、サム・ロックウェルの配役として「見えていた」けれど、終盤のハジケ方も悪くない。

なんだろう、やっぱり個々のキャラクターはそれぞれ良いけど、全体としての、映画としての語りがどうにも硬い。映画ならではの飛躍もそれに伴って乏しい印象。