まいたけ

新聞記者のまいたけのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
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話題の「新聞記者」、選挙が終わってもまだやっていたので観てみました。平日なのでお客さんは4割くらい。客層は中年以上男性が多めに見えました。
現政権批判で上映中止の圧力がかかったとかなんとか、少しの予備知識はあったものの、あ、松坂桃李は新聞記者じゃないんや、くらいのフラットなかんじでは観れた気がします。

以下少しネタバレがきっと入ります。

吐き気がする、とはよく言うけれど、ほんとに吐き気がするのは自分にとっては珍しくて気持ち悪くて終わってすぐトイレに走りました。
自分は単純なので、物事の受け止め方はわりとストレートだと思います。影響受けやすく信じやすいっていうか。なのでこの気持ち悪さは、この映画で描かれているこの国の歪んだかたちに、です。

正直脚本的には、最後のスクープのくだりが安っぽく見えてしまって、ここまで露骨なワードじゃなくてもいいのになぁ、最後で台無しになるんじゃ……と思ってしまいました。内閣情報調査室の描写も、ちょっと演出が過ぎるなぁ……とか。あんなわかりやすい悪の組織、というのはさすがにないんじゃないかと思うし、ど畜生に見えるタダさんも、家に帰ればいいパパだったりするかもしれないし、今どきの映画でそういう二面性みたいな描写が一切ないのはリアリティがないなぁ、とか。
たまたま見てしまったネガティヴ系のレビューまとめにはそういうリアリティをつっこむ声が多くて、こんなところで隙を見せるのはもったいないのになぁ、とも思ってしまった。もちろん全て確信犯だとは思うんですが。

「ペンタゴン・ペーパーズ」とくらべる意見もあって、たしかに前半はマイケルムーア作品とか「ペンタゴン・ペーパーズ」を思い出したりもしました。
しましたが、この映画の主題は現実の出来事への明確な批判、特定の個人や政党の批判ではなく、もし批判の対象があるとするなら、劇中の悪者に「この国の民主主義は形だけでいいんだ」という安っぽいセリフを吐かれてもしかたのないような今の社会と国民なのかもしれない、と思い直しました。そして直近の選挙でも、無関心という意味においてそのセリフを覆せるような結果にはならなかった、と。

「このままでいいんですか」という主人公の新聞記者のセリフが印象的だったのも、松坂桃李に、というよりも観ているこっち側に向かって言われたような気がしたからだろうな。いいわけないんだけど、こんな映画を観るという高いハードルを超えた人たちの中にも「主人公のイントネーションのせいで最後まで入りこめなかった云々」みたいなコメントがあるのを見ると、まだまだこのままやろなぁ……と陰鬱な気持ちになってしまうという無限ループ。

演出や脚本だって、もっとカッコよくクールに決めようと思ったら、押井守作品のようにカッコよくできたんじゃないかと思います。ただ、現実は押井守が描いたような帆場暎一や柘植行人なんかより実はもっと安っぽく、硬派でもなく、シンプルに利権ばかりを追い求める、駄々っ子みたいなカッコ悪い人たちで、そんなクールな悪役にもなれない現実への皮肉かもしれないな。
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