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轢き逃げ -最高の最悪な日-のkinacoのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

試写会にて鑑賞。
毎熊さん演じるどこか男子学生のような新米刑事 前田のぼやきのトーンに冒頭から心を掴まれ、思わずフフッと笑ってしまう。眼差しの強さと対照的な幼さの残る声。自然と寄り添いたくなる真っ直ぐな前田の視点に助けられた気分だった。

深淵を覗くとき深淵もまたあなたを覗いている 。亡くなった娘の事故の日の足跡を辿る時山は越えてはならない一線を超えてしまう。まるで合わせ鏡のように対峙する輝と時山のシーンの激しさに、戸惑いつつも引き込まれた。

ずっと笑顔を向けてくれる写真。穏やかに内面を語ってくれる日記や手紙。新緑の魔法。涙を誘うはずのラストシーンにどこか空々しさと後味の悪さが付きまとうのは、その裏にある感情の手触りを知ってしまったからなんだろう。
ほんの些細なきっかけが火種となり、すべてを焼き尽くすまでその炎が消えることはない。そしてその間も淡々と日は暮れて夜は明けて、生活は続いて行く。
時山夫妻も涼子もこれから先ずっと幾重にもコーティングしてつやつやと磨かれた“真実”で自分の心を守り続ける。いつでも取り出せる所に置いておいて、取り出しては磨き続け、束の間の安寧を手に入れる。その姿はきっと、祈りに似ている。
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