netfilms

ギレルモ・デル・トロのピノッキオのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 遠い海の向こうで戦死した愛すべき息子カルロの勇姿は父親に深い悲しみをもたらす。あの子にもう一度会いたい。悲しみに暮れる木彫師ゼペットは自身を鼓舞するように、酒で酩酊した身体で、木で作った操り人形に命を吹き込むのだ。酩酊した状態で作られた木彫りの人形は屋根裏部屋に歪な形で押し込まれる。だが翌朝、グネグネした奇妙な動きで姿を現すのだ。異形の人の形をした木彫りの人形が奇妙に動き出す様子は、『ナイトメア・アリー』にも通ずるギレルモ・デル・トロの世界観そのものだ。案の定、ピノッキオは人形芝居の親方に騙され、見世物小屋行きとなる。親方も彼の手下のサルも、コオロギも決して表の世界には出て来てはいけない見世物小屋の住人だ。だが学校に出掛けると言ったピノッキオをゼペット爺さんは信じて止まないし、いなくなったピノッキオの姿を探し続ける。アニメーションの作画を担当したのは『ファンタスティックMr.FOX』でお馴染みのマーク・グスタフソンで、名作童話を21世紀的なストップモーション・アニメとして命を吹き込む。嘘を付けば付くほど伸びる鼻の描写は歪ながら圧巻で、やがてこれが父子の絶体絶命の危機を救うのだ。

 流転するピノッキオの受難は昨日アップした『E.O』のロバを彷彿とさせる。ゼペット爺さんの元を離れたピノッキオは様々な人々に利用され、搾取される。人形芝居の親方はゼペット爺さんに売上の半分を送るとピノッキオを騙し、クラスメイトの父親はゴリゴリのファシストで、木彫りの人形を使い、プロパガンダ的な政治利用を試みるのだ。誰もがピノッキオの純粋な心を利用し、搾取しようとする。それに輪をかけるように、勉強と努力が一番苦手なピノッキオは短絡的で、すぐに騙されてしまう。主人公の転落劇も印象的だが、途中悲劇の運命に見舞われるファシスト政権幹部の息子の哀れが涙を誘う。ムッソリーニ体制下のファシスト政権の欺瞞すら露にするのだ。ピノッキオは創造主であるゼペット爺さんの戦死した息子になると健気に、だが安易に宣言する。キツネや猫は出て来ないものの、巨大なサメに呑み込まれるのは原作通りだ。永遠の命を持つ少年は幾ら死にたいと思っても容易に死ねない。だが命が有限であると気付いたところから、彼自身の本当の運命の旅が始まる。子供の頃に何度も読んだ原作だが、それでもクライマックスには思わず涙腺が緩む。

 異形の人をテーマにした物語ながら、声優陣にはユアン・マクレガーやケイト・ブランシェット。クリストフ・ヴァルツやロン・パールマン、ティルダ・スウィントンら世界のトップに君臨する俳優たちを集め、古典的な物語に新たに息を吹き込むギレルモ・デル・トロの手腕は流石の一言に尽きる。近年のディズニー映画よりも少々毒っ気のある古典の映画化は、むしろ私はこっちの方がしっくり来た。
netfilms

netfilms