ひで姐

行き止まりの世界に生まれてのひで姐のレビュー・感想・評価

4.1
アメリカで最も惨めな街と言われてるロックフォード。ここで暮らす3人のスケーターの12年間を追ったドキュメンタリー。自分もスケートボードを少しやるのでかなり興味を持って鑑賞しました。で、観る前は単なるスケーターの青春ドキュメンタリーかと思ったら違ってた!いや、決して間違ってはいない。主人公の3人はスケートボード(以下SK8)を通じて仲間となり共に成長してきてるのだが、(ちなみにその3人のうちの1人が本作の監督)SK8シーンは全体の半分にも満たないのだ。

では何故SK8なのか?それは原題にも含まれてる「Gap」という単語にも関わってくるのだが、SK8においてGap(=段差)は恰好の遊び場なのである。(もちろん原題のGapにはもっと様々な意味合いが含まれているはず)段差に飛び乗ったり逆に飛び降りたり空中で回ってみたり…しかし初めからそれらの事がすんなりできるわけではない。何度も練習する必要がある。その過程でコケる事もあるだろう。段差が低ければコケても擦り傷程度で済むかもしれないが、より高い場所に飛び乗ったりより高い場所から飛び降りたりするようになると失敗した時の衝撃も大きくなる。捻挫、骨折、脳震盪…打ち所が悪いと半身不随や最悪死ぬ事もある。ケガの恐怖との葛藤で技が成功できないと「行き止まり」を感じでしまうだろう。しかしそれらをものともせず技を成功させた時の爽快感、達成感…行き止まりの壁を乗り越えた瞬間である。

3人が育った街のロックフォードは言うなれば街の環境自体が行き止まりの壁だらけ。更には子供の頃から虐待を受けていたりDVを間近で経験したりという境遇で育ってきたというおまけ付き。普通の人ならば精神を病んだり犯罪に走ってしまうかもしれない。こうした背景を踏まえつつ、聞き手も話し手も仲間であったり家族や身内であったり、だからこそ踏み込めた領域というのをはっきりと見せつけてくれてるのがまずポイント。それぞれがそれぞれの「Gap」を乗り越えようともがいている。インタビューという形を取ってはいるが、実は聞き手(監督)がインタビュー相手の一番吐き出したい言葉を誘い出してるようにも思えてくる。仲間よりも誰よりも深いつながりがあるからなのか、監督ビンの母親の言葉がぐっと来た。

スケーターは「乗り越える」事の大変さ、大切さ、そして乗り越えた先の爽快感や自由を常に身をもって感じている。だからなのだろか、決していい環境とは言えない中にいながらもあまりネガティブさを感じなかったかな。SK8シーンがそれを象徴してるようにも見えてめちゃめちゃかっこいい。
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