まっつ

行き止まりの世界に生まれてのまっつのレビュー・感想・評価

3.9
「いつも笑顔でいる奴が、いつも笑顔でいるワケがない」というのが私の持論。本作はまさに、彼らが笑顔の裏でどんな経験をしているのかをまざまざと映し出していく。そうして明るみになったものは全くもって笑えるものではない。だけど笑えるように生きていく。自分の人生を制御していく。

すぐそばにある(当事者でもある)虐待や差別、貧困。およびそれらの世代を跨いだ再生産。そこからの逃避としてスケボーがあった人達の話。しかし彼らは歳を重ね、これまで逃げてきた痛みに向かいあっていく。ある者は亡くなった父に、ある者は自分を見捨てた母に、そしてある者は自分自身の愚かさに。私はその中でもやはり、自分と向き合ったザックのクライマックスに心を動かされてしまった。彼は暴力の被害者であると同時に加害者でもある。川辺で自身が犯した暴力について語り、自己嫌悪に涙を流すまでを捉えた映像はさながら『アクト・オブ・キリング』のよう(パンフレットで町山智浩さんが寄稿したレヴューによれば、『アクト〜』の続編である『ルック・オブ・サイレンス』が、監督が継父から受けていた虐待に向き合う勇気を与えた、とのこと)。「認めたくないんだ。人生が苦しいのは俺が最低だからだなんて」と嘆くザックを見ていられなかった。ロックフォードという街の経済状況や家庭環境など、起こったことの全てが彼のせいであるワケがない。とは言えその痛みに目を凝らし、制御しなければ、変わるものも変わらない。「痛みなくして成長なし」。その事実が持つ理不尽さにこちらまで嫌になるが、行き止まりを飛び越えたラストに「どうかこのまま彼らが幸せであるように」と願わずにはいられない。大傑作でした。
まっつ

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