ゆず

行き止まりの世界に生まれてのゆずのレビュー・感想・評価

4.2
フィクションよりもドラマチックなドキュメンタリー映画。ちょっとした傑作。

イリノイ州ロックフォードの3人のスケートボーダーを通してアメリカの現実を明るみへと引きずり出すノンフィクション映画。キアー、ザック、そして本作の監督でもあるビンの、それぞれの置かれた状況がまさに「アメリカの現実」。
ところが本作はドキュメンタリーであり、3人はたまたま友人で、ビンが早くから撮り溜めていた映像が多く使われていたりする。物語を創作したわけでもなく、脚本があるわけでもないのに、たまたま友人だった3人が三者三様の「アメリカの現実」にぶち当たるという偶然からしてありえない。
簡単に言えば、(言い方は悪いが)映画のネタとしてピッタリすぎる3人がたまたま友人だったのは本作にとって幸運すぎやしないか、ということだ。もしもビンがカメラを手にしてなければ、この「アメリカの現実」は埋もれてしまっていたのだから。

なぜ妻に暴力を振るうのか、という問いに対して、「もしバカな女がクソなことをやろうとしていたら、暴力はよくないが、でもそれは仕方ないだろ」という酔っ払いの回答が哀しくもリアルであった。特に間に「暴力はよくないが」と挟むところとか。そうやって人は自らの行為を正当化していくんだな…。
ビンが母親に問い質すシーンもリアリティ・ショーなんてレベルではなく、母親は俳優なんじゃないかと思うほど真に迫っていた。
そして、他の問題も母とビンの問題も、実は「アメリカの現実」としてひとつながりになっている。

フィクション作品で描かれる人同士の軋轢とは、本当に現実を切り取っていたし、それらは特別珍しいケースでもなかったのだな、と思う。
そしてこんなフィクショナブルなドキュメンタリーが市民の中から出てくるということが、アメリカの映画産業・映画文化が国民に浸透しているということの証左でもある。
ゆず

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