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世にも怪奇な物語のkaomatsuのレビュー・感想・評価

世にも怪奇な物語(1967年製作の映画)
4.0
幻想的なエドガー・アラン・ポー原作の小説を、ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニの三巨匠が、独自のセンスで表現したオムニバス映画。ストーリーや内容云々よりも、とめどなく溢れ出る三者三様のイメージの洪水を、ただ感じるまま受け止められるか否かが、この映画の評価を左右するように思う。映画とは、単に分かりやすくて起承転結のあるストーリー展開や、作り手の明確なメッセージなどを提示するのみに留まらず、きわめて個人的な夢や妄想、幻覚、トラウマ――それらには当然、意味や脈絡、情緒を煽るドラマツルギー、理路整然としたストーリー性など無いことのほうが多い――さえも映像化できる、自由な表現媒体であってほしいと思う私にとっては、この作品はとても興味深く、楽しんで観ることができた。まったくの赤の他人の妄想や夢を、映画という表現媒体を通して、ハッキリとした像として観ることができるなんて、なんてファンタスティックな体験なんだろう、自分が映画好きで良かったな…と、この作品を観てつくづく思った。


ロジェ・ヴァディム監督「黒馬の哭く館」は、ある伯爵令嬢が惚れた男に振られ、その腹いせに起こす行動と、その後の奇妙な現象を描いた、ひたすら耽美的な作品。ジェーン・フォンダとピーター・フォンダの姉弟が、ただまぶしく、美しい。

ルイ・マル監督「影を殺した男」は、常に主人公の男に付きまとい、邪魔をする瓜二つの男との葛藤劇。アラン・ドロンの異常なカッコよさとブリジッド・バルドーの色気がハンパない。とても分かりやすく、コンパクトにまとまったドッペルゲンガーものだが、『ペルソナ』や『ファイト・クラブ』などを観てしまうと、いささか単純な印象は否めない。

フェデリコ・フェリーニ監督「悪魔の首飾り」は、落ち目の俳優が映画出演の報酬としてもらったフェラーリに乗り、不安に苛まれながらも孤独のドライヴをする中での、おどろおどろしい幻覚体験を描いた作品。ショービジネスへの皮肉や、落ち目の俳優という設定がいかにもフェリーニらしいが、オムニバス3作品の中で唯一、現場ロケーションではなく、おそらくチネチッタでのセット撮影のため、チープな作り物感ならではの異様な雰囲気がムンムン、まさにフェリーニ・ワールド全開。フェリーニが怪奇ホラーに挑んだ、貴重な映像作品といえる。テレンプ・スタンプが素晴らしく頽廃的。ただ、フェリーニ本来の、明るい日常性と地獄絵図のシュールなギャップに戦慄する私にとっては、すべてが暗黒の地獄絵図に彩られたこの短編は、かえって怖さは感じられなかった。
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