うっちー

スウィング・キッズのうっちーのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.2
 皆さんのレビューを拝見し、たまらなくなって行きました、シネマート。や、これは予告やポスターと違いませんか⁉️ 良い意味で、というか、よく出来てますが。そういう意味では『タクシー運転手』ばりの展開。というか、こちらはもっとバットエンド。

 大体私は朝鮮戦争について知識が浅く、その間従軍した方、一般国民のかたが、それぞれどんな目に遭われたのかをよく知らない。今作では冒頭に少し説明が入るので親切。ですが、文字を追っただけでちゃんと頭に入っていない。ただ、今作の舞台、コジェ島に収容所があり、アメリカ軍管理の下、北系の元軍人や反乱分子、また中国人などが収容されていた。民族も言葉も同じだが、共産主義と資本主義という、重い分断が亀裂を起こし、激しいせめぎ合いが起こる。この対立も、のちに“ファックイデオロギー“と、収容所に紛れた一般国民の女子、パンネが喝破したように、大国間の覇権争いに一般国民が巻き込まれた感があり、なんともやり切れない。しかし、『JSA』『高地戦』など、朝鮮戦争ものの血生臭さは激しい。今作も、中盤からの対立、暗殺計略、そして殺戮が激しい。また、緊張感の盛り上げ方も息苦しいほどで、すこぶるうまい(そういえばこの感じは、太平洋戦争時の占領軍対レジスタンスの攻防を描いた作品群にも似ているかも)。この監督、スリラーやったらめちゃくちゃ凄いのではないか。

 主役のギスを演じるギョンス、人気者だし、演技が達者なのは知ってたが、実は苦手なタイプで、それほど彼の演技に感動したことはなかったが、今回は素晴らしい。身体はあまり大きくないし、強そうでもないが、胆力が感じられる佇まい。朝鮮人民軍の兵士だったが、昔からダンスが滅法好き。アメリカ軍やアメリカに反発しても、黒人軍曹、ジョンソンのあのダンスを見てしまったら、心動かないはずはない。中盤から、負傷した帰還した親友(この人が放つ緊張感半端ない)が登場、そこから、アメリカの象徴的なダンスに惹かれてしまう自分と、アメリカ軍人への報復と愛国心に燃える同胞たちとの板挟みに苦しむことになる。

 踊りの天才、ギスと組むことになる他のメンバーたちの顔ぶれが凸凹で個性的でよい。勝気な通訳役のパンネ(ドラマ『青春時代』の第一シーズンに出てたパク・ヘスだ。強くて賢い感じがよく合ってる)、ひたすら妻を探すサムルノリの踊り手みたいなビョンサム(ドラマ『椿の花が咲く頃』でも個性全開だったオ・ジョンセ❗️ こういう哀れでおかしみのある役がハマる‼️)、そして謎に動きが俊敏で柔らかな中国人ダンサー、シャオピンと、これ以上ないくらいのバラバラ感。それが、最後のステージであそこまで揃えて仕上げてくるのが圧巻なのだ。

 合間に、さまざまな抑圧を解き放つように踊るパンネとギスの映像が重なり合うシーンは、『フットルース』を彷彿とさせる。デビット・ボウイ「モダンラブ」が懐かしい。

 とにかく、いろいろな感情を揺さぶる、強い映画。朝鮮戦争のことも、もっと知らないとダメだな、と思った次第。秀作です。



 
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