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スウィング・キッズのditaのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.0
@ シネマート心斎橋   

わたしはこの映画で文字でも写真でもなく、タップダンスで戦争を体感した。床に響く振動が心と体にのしかかり、観終わって支配人さんに感想を話そうとしたらボロボロ泣いてしまった。リズムを刻む彼らの足音が心に刻まれ、戦争の不条理さが心に刻まれた。映画を観るということは「体験」だなとつくづく思った。

途切れ途切れのタップシーンに「もっと見せてよ」と思ってしまうけれど、楽しいダンスの裏側に見え隠れする主義と思想がこれは戦争映画なのだと知らしめる。分かり合うこと、なんて綺麗事はイデオロギーの前ではこんなにも困難だ。

ラスト近くでジャクソンが"murderer!"と叫んだ時にわたしの感情が爆発した。戦争の名のもとに主義や大義名分をいくら並べても、人が人を殺すことに何の意味があるのだろう。世界じゅうに溢れるものは銃撃の音ではなく手拍子であり、流すものは血ではなく汗であり、聴こえるものは悲鳴ではなく笑い声でなければならないはずなのに、人間どうしで何故楽しみを奪い合い、感情を奪い合い、そして命を奪い合わなければならないのか。悔しくて仕方なかった。

わたしたちが歴史を知る手段といえば文章や写真、映像や体験談が殆どだ。この映画は史実ではない(実際に収容所で結成されたタップチームはあったが物語自体は創作とのこと:シネマート心斎橋の支配人さんより)。でも、彼らのようにエンターテイメントを愛し、主義の狭間で苦しみ、それでもいつかきっと、と夢を見た人々はいたはずだ。「19○○年△月、誰それが何々をしました」こんなことばだけで彼らの行動や感情をまとめられてたまるかと思うとともに、今日映画館で体感した彼らの息遣いと、刻まれたステップを決して忘れないと心に誓った。
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