開明獣

スウィング・キッズの開明獣のレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
5.0
本作がAmazonプライムと、Netflixで配信されている今、少しでも多くの方に観てもらいたい作品なので、レビューを修正して、再掲。

1950年代の朝鮮半島、巨済島の収容所には、北朝鮮、韓国の戦争捕虜とそれを取り締まる米国軍人がいた。ブロードウェイで、タップダンサーだった黒人兵士が、北朝鮮の革命闘士や、中国雑技団にいた男、韓国で民族舞踊をしていて妻と生き別れになった男、両親を亡くして幼い子供たちの面倒を見ている娘らと出会い、タップダンスチームを苦心惨憺、紆余曲折、作り上げていく。

笑いあり涙ありのエンターテインメントだが、一筋縄ではいかないのが、コリアンクオリティの凄いところ。身体が自然に動いてしまうほどの躍動感を是非体感して欲しい。だが、エンディングでは、エミール・クストリッツァの「オン・ザ・ミルキーロード」に通底する、痛烈な平和への願いを感じることだろう。

全編に流れるテーマは、"ファック・アイディアラヂー" 「主義信条なんて、クソくらえ」だ。旧ソヴィエトが奉じた共産主義と、アメリカが奉じた資本主義の狭間で翻弄される、普通の市井の人々に何の罪があろうか。

朝鮮戦争は、米中によるイデオロギーの違いを憎しみに転換してぶつけあった最初の愚かな代理戦争だった。世界の警察を自負するアメリカは、第二次大戦以降のいかなる軍事介入でも、最終的に成功したためしたはない。その陰には、PTSDに苦しんだり、理不尽に命を落とした、多くの普通の人達がいる。

一方、今現在、ロシアが理不尽な侵略戦争を続けている。かつては、日本もアジアに対して侵略戦争を行った。それは厳然たる事実であるのに、安倍晋三元首相の祖父であり、元A級戦犯で、戦後は首相となった岸信介は、「二次大戦では日本は侵略戦争はしていない。自国防衛のためのやむなき結果だ。」と事実を捻じ曲げた放言をした。そして今また、戦争大好きな連中が、軍備拡張を叫んでいる。彼らは「国を守る」を錦の御旗に、人殺しの道具を増やせと言う。まるっきり、岸信介が言い放ったような、第二次大戦中の雰囲気になりつつあるようで、真底恐ろしい。

私達は、本作から何を学ぶことができるだろうか?いや、何を学ぶべきだろうか?問い続けることの重要さを改めて考えたい。

* 日本語だと、イデオロギーだが、ideologyの英語の発音は、àɪdiɑ́ləʤiで、カタカナだと、アイディアラヂーが近い。
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