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スウィング・キッズのSPNminacoのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
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朝鮮戦争時の捕虜収容所で、アメリカ軍の思惑により結成されたダンス・チーム。元ブロードウェイ・ダンサーの下で目的も出身も異なる4人がタップに夢中になっていく前半はコミカルな場面も多く、『勝利への脱出』を思わせる。主人公ギスが耳に入るすべての音に刻まれたビートを本能的に嗅ぎ取り、突き動かされていく描写が熱かった。タップが絶望的状況に光を灯し、タップシューズが魔法をかけるのだ。例えアカでも黒人でも女性でも、対立するイデオロギーであっても、脚があればどこへでも行ける。反米共産主義の頭を持つギスも、脚は勝手にアメリカの大きなステージへと向かう。けれども、分断される頭と脚。その間で引き裂かれるギスの心。
丘の上でコーチとギスが夢見るその下を軍用車が通り過ぎていくのを境に、後半は一変してかなり血生臭い。ダンスチームは容赦なく戦争に翻弄され、もはやダンスどころでなくなる。ギスとチームの最初で最後のステージはあまりにも悲惨だ。残ったのは“ファッキン・イデオロギー”。
それでも、映画は「抵抗」のダンスを踊り切ってみせる。それぞれが踏む音のワクワクする高揚感。タップ対決、ダンス対決とは正に対話であり通訳不要のコミュニケイションだ。スパイが暗躍し演説が人々を焚きつける中で、敵味方なく何よりも通じ合えるのがダンス。とりわけギス演じるD.O.は立ち姿が既に美しく、ハンサムで精悍な顔立ちと身体能力の説得力が圧倒的に素晴らしかった。
他に歌もダンスも見事なパンネ、丸い身体でキレのある動きの中共軍シャオパン、ギスに憧れる生意気なガキ、憎み合いながら縁を育む米軍兵士など、愛おしくなるキャラクターたち。(惜しむらくは、その中で比較的アメリカ人俳優の演技力が物足りず)
しかも、雨に唄えば/ウェスト・サイド物語(&BAD)/フットルース/フラッシュダンス/オズの魔法使…とミュージカル映画オマージュをどっさり織り込んであるのがグッとくる(魔法の靴やメンバーたちは願いを叶えるため“黄色いレンガ道”を進む一行をなぞってるよね)。そんな訳でダンスは勿論、バックバンド、特にドラマーに泣かされてしまった。『サニー 永遠の仲間たち』の監督だと後で知り…どおりで!
というのも、『サニー 永遠の仲間たち』で涙腺決壊したのは最後のダンスシーン…というより、弁護士さんのリアクションだったから。いや、ベタっちゃベタだけど「そうあってほしい」。既に決壊寸前のコップにその一雫を垂らされたことでドドっと溢れ出るんだよ。そういう一手間をおろそかにしないのが良い。
でもって『サニー』は“愛のファンタジー”、『スウィング・キッズ』はまさかの“モダン・ラブ”!!!モダン・ラブが流れたら走り出す/踊り出す衝動(from『汚れた血』to『フランシス・ハ』)がこの映画でも!!監督はぜったい私と同世代だね。
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