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マルモイ ことばあつめのSPNminacoのレビュー・感想・評価

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)
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奪われた母国語を守ろうとする人々の戦いは、パンスが共同体の一員、同志になるまでの物語でもあった。当初、知識人たちの学会と前科持ちチンピラな彼は分断されている。同じく抑圧される側なのに、いやむしろその中で階層分けされてお互いの不信を生む。金ならともかく言葉を大切に集めて何になる?と呆れるパンスは、弁が立つけど読み書きができない。やがて看板を読むようになる喜びは、疎外や隔たりから解放され共有する自由。押し付けられた日本語を流暢に喋る息子と対照的に、言葉は一方通行でなく対話だ。
学会がパンスを招き入れるだけでなく、彼も学会に仲間を招き入れるのが良い。多様な方言集めはバラバラだった人々を集め、結束させる。プロパガンダ映画を見せるための映画館は、行き場のない声や言葉を聞く場になる。
史実を元に、映画としては政治性とエンターテインメント性を両立した王道だった。そんな気などなかったアウトサイダーが目覚め、熱い友情が芽生え、止むを得ぬ裏切りや犠牲があり、思いがけず英雄となり…様々な闘争&抵抗運動ものでよく観る展開だし、古典的な英雄の旅そのものだ。でもそれは求められる物語のカタルシスでもあるので、フィクションならではのベタに手を抜いてない。スラれた鞄の追跡がクライマックスの逃走へと鮮やかに繋がり、ここぞという場面に流れる音楽はウェスタン調!(七人の侍〜荒野の7人?)
それにしても、弾圧される(されやすい)のはいつも言葉や書物で、拠り所になるのも書物。固有文化である言葉を喪失した共同体は頁がバラバラになった本みたいなもの、だから彼らは1冊の辞書を作るのだろう。消すのは簡単かもしれないけど、残したり取り戻すのは本当に難しい。でも各地方言の中から標準語を選ぶのって、相当揉めそうだった。
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