あしたか

天気の子のあしたかのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
2.0
[あらすじ]
高校1年生の帆高は、離島から東京へ家出をしてきた。やがて零細編集プロダクションに拾われ、記事の取材に奔走する中で、祈るだけで晴れ間を呼べる究極の晴れ女・陽菜と出会う。


ストーリー★☆☆☆☆
映像(美術)★★★★☆
キャラクター★★☆☆☆
音楽の使い方★★★☆☆
感動★☆☆☆☆


※※※若干のネタバレ有り※※※

敢えて『君の名は。』と比較しながら書いていきます。

君の名は。の何が面白かったんだろうと考えると、音楽や超絶美術は勿論だが、個人的には魅力的なストーリーが一番だったのかと思う。
スピーディーに描かれる入れ替わり劇、中盤のどんでん返しと絶望感、ドラマティックかつスリリングな逆転劇、どう転ぶかわからない緊張感、余りにも感動的な幕切れなど、とにかくジェットコースターが如く観客の感情を揺さぶりまくった。

で、今作にそういうのがあるのか?と聞かれると、残念ながら無い。本当に残念ながら、無い。
音楽と美麗な美術でなんとか持っているものの、余りにも中身が薄いし浅い。これじゃ量産されるスイーツ映画(=ティーン限定恋愛ドラマ)と同じではないか。

イマイチな物語の原因として、設定の甘いところが目立つ。
例えば主人公・帆高の家出設定が思わせぶりなくせにほとんど説明されない。彼が離島でどんな生活をし、どんな孤独感を感じ、何を求めて東京に来たのか ⇒ これらは東京を描く上で、ひいてはヒロイン・陽菜と関わり親密度を高めていく上で欠かせないバックグラウンドの筈なのに、序盤の雰囲気に任せるだけでほとんど観客の想像に丸投げ。この時点で大きな肩透かしを食らった気分。

他には拳銃の扱いが極めて雑だ。大きな影響力を持つ拳銃というアイテムをポンと登場させるリアリティの無さも信じられないし、その上物語の進行上特に必要性が無い(本当は作り手がどういう意図で登場させたかはわかるものの、それに納得はしたくない)。

勿論こういったツッコミ所は君の名は。にもあったが、あちらには抜群のスピード感と勢いでそれを気にさせない工夫があったし、何より話の続きが気になるワクワク感があったから問題にはならなかった。

今作は話が平凡過ぎて特に見るべきものがないゆえに粗がとにかく目立ってしまう。
主役2人が恋愛関係になるのは見る前から誰もが予想しているところだが、まさかその理由が特に描かれずに、結局何となく好きになっただけというのは拍子抜け。もっと運命的あるいは説得力ある人間関係を期待したのだが。
帆高の家出の理由か陽菜の出自をしっかり説明していれば、帆高を救う超能力者・陽菜という構図が確固たるものになりもっと厚みが出ただろうに。
君の名は。ではヒロイン・三葉の過去とかをちゃんと説明していたのに、今作ではどうして出来なかったのだろう。
そもそも、そういったヒューマンドラマ要素をこの映画に期待したことが間違いだったのかもしれない。新海監督、ひょっとして若い男女の盲目的な恋愛しか描けない?いや、まさか、そんな…。

別に恋愛映画は嫌いじゃない。若さを理由に雰囲気だけで恋愛してるような浅い作りが気に入らないというだけ。

人間ドラマ部分で言えば唯一、小栗旬演じるキャラクターだけは裏面もしっかり描写されていたので、彼の最後の行動には説得力がありグッとくるものがあったと思う。
こういうのが全編に散りばめられていれば良かったのだが…。

まあ、君の名は。のようなファンタジックでワクワクするストーリーを期待していただけに前半部分のガッカリが大きかったのかもしれない。まさか前半が帆高と陽菜がバイトしてるだけで終わるとは思わなかった。しかし、ファンタジーとしても人間ドラマとしてもやっぱり地味なことには変わらない気が。
いつになったら面白くなるんだろう?と待ってたら終わってしまった感がある。

ストーリー面に関しては終盤は少し派手になってきて盛り返すが、これも映像と音楽の凄みで誤魔化された気がするし、何よりやはり主役2人の絆の描写があっさり薄味仕様なので、胸に来るものがない。君の名は。のラストのあの感動には遠く及ばないというもの。これぞ縮小再生産。

セカイ系なんて呼ばれるジャンルだが、若い男女が恋愛してるだけで面白くなる訳でもない。恋愛を世界の法則に絡めて「オレらの恋愛サイコー!イエーイ!!」と声高々に叫ぶのも、最初はいいが何度もやられると大人の観客は恥ずかしくなるだけである。

他にも気になる部分は多々ある。
●帆高の幼さ
⇒16歳とは思えない。言動が小中学生のそれで見苦しい。

●音楽の使い方の安易さ(必要性の無さ)
⇒君の名は。で「前前前世」がかかる場面は物凄い盛り上がりであったが、今作では物語が温まる前に音楽だけが先走るので滑っている印象がある。終盤の「グランドエスケープ」は良かったけど。

●曇り空だらけ
⇒脚本上仕方ないのだが、曇り空の暗い風景が続くので爽快感に欠ける。勿論それを負荷として後半のカタルシスに繋げる為の演出だというのはわかるのだが、そのカタルシスが曇天の強さに負けていることが問題。

●キャラクターのイタさ
⇒相変わらず男の妄想だけでできたような女性キャラクター。見ていて小恥ずかしくなる。これも君の名は。では許せたのに今作では気になる部分。

●警察の登場の無意味さ
⇒物語終盤を盛り上げる為に帆高を追い詰める何らかの存在が必要だったのはわかるが、何とも浅くてチープな扱い。そもそも犯罪映画でもないのに警察から逃げるシークエンスが一番の盛り上がりの映画ってどうなのよ。
主人公に負荷をかける存在を出すならもうちょっと練ってほしかったところ。何もそれが人間でなければいけない理由もない筈。

長々と文句みたいなことを書いてきてしまったが、以上を一言で言うと「エンタメが弱い」。"面白さ"を感じる要素があまりにも少ない。何を楽しめばいいのかわからない。
美術の圧倒的美しさや音楽のクオリティの高さは健在だが、もはやそれだけの映画だと思う。最初に君の名は。の一番の面白ポイントはストーリーだと言ったが、それが抜けるだけでここまで可もなく不可もない作品になってしまうとは。

勿論、全く感動しなかった訳ではない。しかし美術と音楽の力だけで物語の薄さをカバー出来る訳でもない。尤も、その2つだけで一定の満足度を与える実力は流石だが。

期待が物凄く大きかっただけに、ガッカリ度も大きな作品になってしまった。
新海監督が不世出のアニメ作家であるのは間違いないと思うので、次回作にはまた期待したいと思う。
あしたか

あしたか