曇天

天気の子の曇天のレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.0
「青臭い」だけで片付けては居られなかったのでまとまらない感想を。
愚直で無鉄砲な主人公に儚げなヒロインの最終着地点なんて特に気になりもしないし、まず大体予想はついちゃうもの。なのに本作は面白かった、涙腺を突かれた。つくづく映画は過程が大事なんだと思い知らされました。


この映画では移動するだけで物語を動かしていく。厳密には、主人公が移動を始めたら「はい、ここから話動きますよ!」っていう合図みたいになってて単純でわかりやすい。走り続けたり逃げ続けることで緊張感を持続させるのは映画の基本で、本作でもそれは汲むんだけど、本作はアニメーションでもあるので表情はもちろん走り方や小道具の一つ一つや色彩までもが感情を表現する役者のように機能する。とここまでは普通のアニメ映画でもよく見る手法だと思う。でも新海監督は違うんです…別に新海誠を持ち上げたいわけじゃないので、率直に言えば、本作は移動した先に大袈裟な目的や謎もないけどとにかく走らせる。むしろ走るのがメイン。しかもなんか走り出す瞬間にドラマがある。「誰かの為に少年が走ってるのって青臭くていいじゃないですか」と言ったか言わずかそんな声が聴こえてくる。でも映画も話もしっかり動いて感情を動かしにくるので大変に成立している。大事なことです。

そんな見方だけじゃなくて真面目な見方で考えさせられる点もありました。東京を舞台にする意味もちゃんと示しています。大人としての冷静な目線が果たして本当に正しいのかどうか。

家出をした主人公は東京外の人間で、彼を追って元の場所へ戻そうとする人間は全員東京人というのが面白い。東京人が全員敵に見えてきます。そんなに恐いか?東京人。まあ恐いな。

家出をした少年は常に普通から外れた存在で、エゴを通してる状態なので主に警察が本来の居場所へ戻そうとします。後半では警察でない一般東京人までも少年を家に帰そうとします。終盤で少年はさらに大勢を不幸にしてしまうようなエゴを通そうとするんだけど、それを止めようとしている正義の大人達もまたエゴに塗れているのでした。
なんという一級のどんでん返しなんだ。慣習的倫理的教育的な正しさを漂わせておきながら実は、自分と身内のため、社会のよりよい生活のためという多数派のエゴの為に動くのが冷静な大人としての目線の正体だったのです。大人は、普通から逸脱した者が自分達の生活を脅かすのを嫌がっているだけなのでした。大人だから正しいわけじゃない。エゴが多数か少数かの違いなだけ。少年の青臭く無鉄砲なエゴが冷静な大人の正体を暴き出す最高のクライマックスでした。

もちろん現実の生活においては大人な目線が正しいことが大半です。最初から最後までエゴを突き通す少年に苛立ちを覚えるのは当然だと思います。そんな冷静な感情を持つことが社会では良しとされているのですから。でも少年的なエゴを持つことが間違っているとも限らないだろうとも思いますので、個人的に本作は良い事言ってくれたと思っています。

新海誠作品をちゃんと観てるのは『言の葉の庭』からですが、現代東京、都会の世知辛さ、少年っぽい憧れとか全部一緒で非常に強烈な作家性を感じます。同じテーマ扱って一体何本の新宿を撮る(描く)つもりなんだ…。一番恐ろしいのは新海監督(+川村P)です。次作でもできることがまだありそうだから期待。『天気の子』は色恋に寄り過ぎていないのも好きかな。
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