スプリングス

天気の子のスプリングスのネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

〈/セカイ系は、世界を救わない。/〉

【Introduction】
[セカイ系]とは
... 僕と君とその周辺で完結する、セカイを救うお話。
『セカイ』と『世界』は違う。
セカイは、ごく限られた範囲。
主人公と、それを取り巻く環境のことをいう。
もともとは2000年代初めに生まれた言葉らしい。
主人公とそのごく近くの人間だけで世界の行く末が決まってしまうストーリーにつけられた呼び名。だそうだ。
『天気の子』の感想を見ていると、“セカイ系”・“ゼロ年代”・“エロゲー”という単語が目についた。ので。
今回のレビューはこういった出だしから始めようかと思う。

ネットに掲載されていたセカイ系の特徴を挙げてみる。
●物語は主人公とその周辺のみで展開する。
●主人公は世界の危機などの世界規模の問題に関わることになる。
●主人公は世界の危機に向き合うと同時に日常生活も送っている。
●主人公とヒロインまたは主人公周辺の人物との関係性が世界の危機に直結する。
●主人公は世界の危機の解決とヒロインの命の二択を迫られる。
●主人公の精神世界や心情描写が重視される。

セカイ系の定義は曖昧らしく、必ずしもこの条件下のものを言うのではないと書かれてはいた。が、今作『天気の子』を観た方ならこの情報だけでも充分に思うはずだ。
「あれは、セカイ系だ」と。
そして、それを理解した上でこう続く。
「セカイ系は、世界を救わないんだ」と。

セカイ系が救うのはセカイ。
世界なんてどうでもいい。
天気なんて、どうだっていいんだ。

僕と君。
セカイ。
それがすべて。
それですべて。



【Review】

何から書きゃあいいんだ。
何から語りゃあいいんだ。
まあ。とりあえず。箇条書きで思ったことを。

●よかった
...よかった。面白かった。
●新海誠だった
...絵もそうだけど、物語がガッツリ新海誠。
●小道具の使い方がうめぇ
...特に指輪。受け取ろうとした手のひらをすり抜けて落ちる指輪。とか。2つ並べてつけられている指輪。とか。
●声
...主人公“帆高”を演じる醍醐虎汰朗さんも、ヒロイン“陽菜”を演じる森七菜さんも、小栗旬さんもみんなマジでうめぇ。本田翼さんも危惧されていたような残念さは、予告にも使われていた「君のそーつぉーとーりだよ」のセリフ以外は無かったし、普通に上手かった。「ダッサいにゃ〜」のところ最高。あと、陽菜の弟“凪”を演じる吉柳咲良さんの絶妙な子供っぽさも見どころ。
●プロダクトプレイスメント
...めっちゃ多い。けど。この雑多感が東京らしい。あの世界にすげぇ説得力がある。ビッグマック食べたい。
●編集がテンポよくテンポ悪い
...これ。マジでこれ。セリフとセリフとの間に長すぎる間をもたせたりする割に、テンポよく進む箇所は急ぎすぎなくらいアップテンポ。見せる描写、見せない描写のバランスが取れていないように感じる。音楽のタイミングが歯痒い。
●銃
...いらなくね?いや、要るけどさ。主人公が迷いなく人に銃口を向けてるのちょっと引く。邦画で銃出てくると冷めてまう体質やからうーんってなった。
●演出・カメラワークにより削がれるエモ
...これ絶対に意図的。例えば主人公がラスト付近で例の建物の階段を駆け上がるところ。カメラが引いていく。引いていって第三者の視点で主人公を眺める。圧倒的見せ場になるはずの“駆け上がる”姿を冷静に見せる。これって多分さ、物語をしっかり見てくれってことなんだと思う。ここで主人公の表情の必死さを映したりすると、主人公に観客が憑依してしまう。主人公視点になってしまうと、あのラストの選択を肯定してしまうから。だから、あえてエモを削いでいるのだと受け取った。
●アニメ的な表現
...『天気の子』は、それまでの新海誠作品に比べるとけっこうアニメアニメしている。感情を目で表したり、表情表現が大きい。風呂をいれながら「へへっ」と笑う凪の顔なんか、まんまクレヨンしんちゃんだった。あと、汗の表現。
キャラクターデザインのアニメっぽさによって虚構の物語感が増している。だからだろうか、急にガッツリSFになっても受け入れてしまえる。
●ラストの決断
...ここで賛否が分かれるのだろう。僕はこの決断には大賛成だが。そりゃ、そっちを救うだろうさ。それにこれは、恐らくだが始まったばかりの物語だ。まだ世界の謎も、世界の行く末も、何も分からない。
今までの新海シリーズの主人公達が集結し世界を二転三転させる、集大成のような映画が今後あれば面白くなるなーと勝手に妄想。たぶん野崎まどの『2』みたいな、ヤバい物語になるだろう。
●主人公の設定
...主人公は島の出身だ。家出して東京の荒波にもまれて、それでも強く生きようとする熱い少年。都心出身でない彼があのラストの決断を下すことに意味があると思った。僕たちは、世界を変えられる。コンクリートジャングルを彷徨う余所者の僕らには、これ以上ないエールに思えた。
●グランドエスケープ
...グランドエスケーーープッ!!!!!サビのタイミングが神がかってんだよ鳥肌もんだよあれ!!!!!!!!今作で一番好きな曲で、尚且つ一番使われ方が上手い曲だった。逆に他の曲があまりパッとしないってのもあるが。
●笑いどころ
...猫の変貌ぶりとか。「あ、先輩が呼んでる...」とか。「どこ見てんのよー!」「どこも見てねーよ!」とか。割と笑い起こってた。見てんのよ見てねーよの掛け合いに関してはあるシーンをきっかけに急にエモくなるからつらい。天丼エモがすぎる。
●引っかかる箇所
...落雷でトラック爆破させた後のやっちゃった感が全くセリフや表情から伺えないのがうーんって感じ。このシーンではまだ世界とセカイを天秤にかける前だから、普通に後悔していいと思う。
●君の名は。との接点
...今作には瀧と三葉が出てくる。『君の名は。』には『言の葉の庭』の雪野先生が出てくる。この三作品は世界が繋がっているということ。で。あの結末。過去作の世界までも巻き込んで、あの決断を主人公にさせる製作陣の勇気が、素直に凄いと思う。いや、マジで。冗談抜きでインフィニティウォーばりの思い切った決断してる。

語りたい部分はまだまだある(本田翼さん演じる“夏美”の、ジェイソンボーンみてぇなカーチェイス等)けど、ひとまずここまで。
劇場で観て損はない映画です。
気になってるけどまだ...という方は迷いを捨てて劇場へ!!


【Digression】
セカイ系という言葉自体は以前読んだ『異セカイ系』という小説で知っていました。面白かったのでこちらも是非。
(ちなみに著者の“名倉編”さんの名前はアナグラムのアナグラムになっています)