優しいアロエ

天気の子の優しいアロエのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.6
 新海誠監督がまたしても空の美しさと脅威を描く。その脅威から町を守る物語であった前作『君の名は。』に対し、本作『天気の子』は守るという選択を切り捨てた。空を描けばアニメーションの真価が問われるのも必然で、東京の街並みとの対比が美しかった。

 とはいえ、雨が降り続けることの脅威というのが今ひとつ伝わってこなかったのは残念。“陽菜を取り戻すために世界を犠牲にする”という帆高の選択にあまり重みを感じなかった。たとえば、陽菜が空を晴らした後に水がまとまって降ってくるような描写があったがそれを帆高が目の当たりにするわけではないし、街が雨に沈む映像も帆高が陽菜を取り戻した後のものだ。雨が降り続けることがいかに世界を脅かすかというのをもっと前半に描いたほうがよかったのではないだろうか。

 また、帆高と陽菜が空から舞い戻るシーンは、『千と千尋の神隠し』を彷彿とさせた(そのほか、ある描写からは『もののけ姫』を想起)。振り返れば、その骨格も『千と千尋の神隠し』にどことなく似ている。現実に息苦しさを感じた主人公が異世界に飛び出し、生活にありつく。そして、大切な人と出会い、失い、取り戻すという過程だ。

 総じて、内容が大きく心を揺さぶるものであったわけではないが、さまざまなシーンやキャラクターの感情が映像によって強く心に残る一本であった。
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