アキラナウェイ

天気の子のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.3
今から晴れるよ ——

その言葉を信じて、朝一番の映画館に向かった。
直撃ではないが、台風が近付いていて、雨と風がきつかった。

晴れると信じたのは空模様の事ではない。
新海誠監督の最新作が、果たして僕の心模様を晴らしてくれるのかを知りたかったし、信じたかった。

国民的大ヒットとなった前作「君の名は。」。
個人的に突き抜けて好きな訳ではないが、多くの国民に受け入れられたのは事実だ。間違いなくアニメーションの次世代を担う者として、新海誠監督にはその才があるし、彼の次の新たな打ち手を見たかった。
それで心が晴れればいいと思った。
圧倒的な晴れ模様を見せつけて欲しかった。

高校1年生の家出少年、帆高。
100%の晴れ女、陽菜。

異常気象により長雨続きの東京を舞台に二人は出会った。
帆高はライターの須賀に雇われ、住み込みでライター業の手伝いをするように。晴れ女の都市伝説を追う内に、陽菜と出会う。陽菜は弟の凪と2人だけで暮らしていた。心に念じれば、限られた狭い領域ではあるが、雨を止め、晴らす事が出来る陽菜。
しかし、晴れ女には代償が伴うとも言われていた。

雨、雨粒、空、雲、光、東京。
アニメーションの描写として、圧倒的に美しい。そしてリアル。その画力には溜息が漏れる。
「君の名は。」よりも東京の日常がよりリアルに描き込まれている。それは決して美しいだけではない側面も。

ストーリーも良い。
異常気象、晴れ女という特殊能力。
晴れ、雨、曇り。天気を題材によくぞここまで話を膨らませたと思う。

以下ネタバレ含みます。


















賛否両論分かれるラストではあるが、それも良し。

彼らの純然たる「会いたい」という感情と世界を天秤に掛け、自分達の想いを優先する。それでいいじゃないか。

でも、でも、僕は彼らをどうしても応援出来ない。
特に、帆高を。

彼がどんな理由で島を出て来たのかはわからない。
一切描かれない帆高の両親の事。
一切口にしない家族の事。
彼は何から逃げて来たのかがわからないので、彼を大手を振るって応援する事が出来ない。

事あるごとに警察から逃げる帆高。
逃走するにあたり、自転車をパクろうとする帆高。
警官に拳銃を向ける帆高。
自分を拾ってくれた須賀にまで拳銃を向ける帆高。

チンピラ相手に一発撃ったのは良い。オモチャかと思ったんだろう?でもそれ以降の行動はとても許されるものじゃない。

線路を延々と走り続ける迷惑行為も、それを止められない大人達にも、なんで?と言わざるを得ない。

この反社会的な主人公を、僕はどうやったって受け入れる事が出来なかった。

須賀が帆高の世話をしてやったのは、自分と似ていると思ったからだと。一言でも「親には電話しとけよ」ぐらい言って欲しかった。オカルト系のライターだし、そんな配慮はないものか、とも思ったが、彼には娘がいた。

おい!!
人の親として、他所の子どもを預かるからには、先ず親には連絡しろよ、と苛立ちを覚えた。

大人になれよと言っている須賀ですら、大人なのか疑わしい。

何せ不憫だったのは、帆高の両親だ。
息子に全く顧みられる事もなく、騒動の後、島に戻った彼の生活が多少描かれても、結局両親は登場しないままだった。

神様。お願いです。
これ以上、僕から何も足さないで下さい。
何も引かないで下さい。

君のご両親は君の何倍もの時間と想いを掛けて神様に祈った筈なのに。君は、自分の幸せだけを追うんだね。

帆高の言動が、およそアニメーションの主人公らしく、健全なものであれば、僕はこの映画を絶賛したと思う。

そうか、もう僕が大人だからか。
親だからか。
だから君達の世界には入れないのか。
降り続く雨を憂い、沈み行く大地で不安を抱えて生きていくしかないんだね。

これが現代の若者だと言うならば、もうそれは受け入れざるを得ないんだろうけど、少女が空から降りてくる物語なら、少年少女が清く正しく悪と戦う物語に僕は惹かれる。

つまりは、この映画に出てくる警察も児童相談所の人達も決して悪じゃないんだよね。これが、陽菜を拉致して、その特殊能力を解明し、世界を征服しようだとか金儲けをしようだとか、悪い大人達が敵となっていれば、また違っただろうな。

良い部分は良い。
でも、僕は彼らを応援出来ない。
それはもう自分が大人なんだと突きつけられた様で、なんだか寂しかった。

劇場を後にすると、台風も遠のいて晴れ間が覗いていた。僕の心は雨でもない。晴れでもない。
ただ曇っていた。




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7月も今日で終わり。
365本チャレンジのご報告を。
本日時点で215本。
1月〜7月の累計目標212本はクリア。
8月最終目標は243本。

途中、8本程の余裕が出来たけど、ストックが溜まると逆に一作一作にしっかり向き合えていない様な気がして、レビューがどうにも浅くなる。という事で、敢えてペースを落としました。