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天気の子のshoooooのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
4.7
新海作品のおなじみの映像美に終始圧倒される作品!
家出少年の帆高と天気を操る能力を持つ陽菜の物語。
作画や音楽が見どころである一方でストーリーは比較的シンプルなので、映画館で観るかどうかでかなり評価や印象が変わる作品でしょう。

美しい空や喧騒に満ちた都市の描写にせよ、場面にマッチした劇中歌(の多用)にせよ、新海監督の得意な手法だけで構成されているという印象。
どこでどのような映像や音楽を流せば観る者が感動するかを知り尽くしているのは流石だなと感じます。
一方ストーリーや心情描写などはシンプルで、「君の名は。」の比較的洗練された物語や、「秒速」や「言の葉の庭」の心の機微に触れる描写などと比べれば、やや浅く感じられます。
その意味で圧倒的な映像と音楽だけで心を動かす力技的な映画といえるかも。
ともあれ、美しさは正義です。

特に美しかったシーンは、夕暮れ時に雨が上がり花火が打ち上がる場面、空に手をかざす場面、帆高が空から落ちるところで数秒無音になり音楽が流れ出す場面などですが、空や天気に関する映像はいずれもあまりに美しい。それと「神様。僕らに何も足さないで下さい。僕らから何も引かないで下さい。」みたいな帆高のセリフもよかった。
「君の名は。」の登場人物をカメオ出演させていたのもファンサービスが効いていて面白い。(テッシーや四葉が出ていたのは見落としました...)



⚠️以下ネタバレです



ストーリー展開こそ単純であると記したが、一方で帆高たちに歩ませた結末は巧みなものだったと思う。

この物語は、ヒロインの命か世界(東京)の運命かの二者択一が最も核心的なテーマです。可能な結末としては、①ヒロインが犠牲になって世界を救う、②世界が滅んでもヒロインを救う、③ご都合主義的にどちらも助かる、といったものが考えられます。
①②はバッドエンド感があるし、③はオイオイって感じです。
そして本作では、陽菜が①を選んだのを受けて帆高は明確に②を選択します。(この理屈を超えた利己性はとても好き!)
その結果、東京が水没するという壊滅的な被害が「ちゃんと」生じます。

にもかかわらず、本作は晴れやかなラストを迎えますが、それは「天気」という主題だからこそなせたウルトラCでしょう。
つまり、降雨による漸進的な都心の水没という破局の場合(理論上は)死者が出るなどの他者の悲劇を回避できますし、実際に劇中の人々は水没しつつある東京でなんだかんだ強かに営みを続けています。しかも、世界は元から狂ってる云々という台詞や元々水没した地域は海だったという証言により、帆高たちの罪はうまく中和されます。(この辺の説明のせいでクライマックスからラストまでのスピード感が損なわれていますが...)

主人公たちの決断の結果、きちんと破滅的な被害が生じますが、同時にそれほど深刻ではないわけです。(これが隕石の衝突などなら爽やかなラストはありえません)

その意味で、「天気」という主題は世界かヒロインかというアポリアからハッピーエンドを導ける「抜け道」であり、ジレンマへの新海監督の一つの答えといえるかもしれません。(この折衷的な結末を大衆迎合的・商業主義的と批判することも可能でしょうが...)
しかも、天気や空が彼が最も美的な能力を発揮できる領域であることも踏まえれば、本作はかなり巧妙で完成度の高いもの作品だったと思います。




◎追記

2019年9月、2度目の鑑賞。
これまでの人生で劇場に2度も観に行った映画は本作だけだ。
個人的にも長らく苦しんでいた不安から漸く解放された時期であり、あの爽快感をもう一度味わうべく映画館に足を運んだ。
初回同様に美しさに魅了され放しの2時間だったが、グランドエスケープの流れるクライマックスで不意に涙を零してしまう。
映像と音楽の圧倒的な美しさに心と身体が屈してしまったような感覚だ。
世界の秩序もありきたりなキレイゴトも放擲する帆高の直情さが初回鑑賞時よりも深く真っ直ぐに心を打った。
感動的な映画を見ても泣けないことに痛痒を感じていた私をとても清々しい気分にさせた体験だった。
当初は単純すぎるように思えた筋書きも、その単純さゆえに素晴らしいのかもしれない。