おかだ

2分の1の魔法のおかだのネタバレレビュー・内容・結末

2分の1の魔法(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

ピクサー強し。新訳鋼の錬金術師


「思い、思われ、ふり、ふられ」からのダブルヘッダーで臨むのは、ピクサー最新作「2分の1の魔法」。
まさかの夏休み映画のダブルヘッダー。

しかし、いわゆる夏休み映画、子供向け娯楽作品のクオリティの高さは誰もが知るところ。
しかもそれがピクサー作品ともなれば疑う余地もなし、午前中の「ふり、ふら」と違ってリラックスしながらの鑑賞となりました。


早速感想ですが、やっぱりめちゃくちゃ良く仕上がっていてまずは大満足でした。
ストーリー展開の面白さ、アニメーション本来の視覚的娯楽性の高さ、メッセージ性の高さ。
どれをとっても高次元、まさにコーンフレークの栄養価五角形のような綺麗なバランス感覚です。


あらすじは、エルフの兄弟が魔法を使って亡き父を蘇らせるための冒険に出るという、某国家錬金術師のアレに近いようなSFファンタジー。
それ自体が明快で、かつやっぱり話し運びに見せ方に、どれも丁寧でこんな歳の私でもワクワクするような、つかみから良く出来た安心安全のピクサーメイド。

で、まあその後も変なことはせずに、抜群の作画と丁寧な話運びで王道ファンタジーを推し進めていくわけですが、だからこそ特に輝いていたのが作品に込められたメッセージと、クライマックスの意表を突くような展開。


作品のテーマの一つはおそらく、想像力。もとい、物事の見方とでもいえるでしょうか。
いま、当たり前のように見えている風景や物ごとを改めて見つめなおしてみる。そこに楽しみを見つけ出す。そういった日常の楽しみ方を、今作は提示してくれているように思う。
それこそ「思い、思われ、ふり、ふられ」でもあったように、『ここではないどこか』に見える場所は遠くてもそこから見た自分たちの居場所はやはり誰かにとってのどこかであるという、見方を変えることの楽しみ。

だからこそ今作では、町外れのファミレスや通っている学校、その壁に描かれたドラゴンなどのありふれた風景がファンタジーの舞台として稼働するような作りになっている。
主人公と兄との関係性もそうで、イアンが求めてやまなかった、自分を強く支えてくれるメンターは実は1番側にいたのだという気づき。

そしてその流れで迎える素敵過ぎるクライマックス。
この、王道を地でいくファンタジー映画においては、誰もが当然、生き返った父親と家族全員の抱擁で締めるハッピーエンドを予想するはず。
しかし、最後の最後、そこだけを少し外してくる。
言ってしまうと、主人公イアンではなく兄のみが生き返った父親と対話し抱擁を交わすという帰結なのだが、これも実は必然性があって良い。

実は兄に支えられてきたイアンや彼氏のできた母親とも違って、最も不安定なポジションにいたのが兄のバーリー。
父親との数少ない思い出と、その最期に抱えた後悔から持ったポリシーのみに支えられ、厄介者扱いを受けてきたバーリーに施されるささやかな報い。
そしてそれをガレキ越しに見つめるイアン。
そのクライマックス描写だけでも100億満点。


そのほか、ドラゴンとの対決などのわりに見応えあるアクションシーンや、そうは言ってもやや味付けの薄い冒険の数々など、いろいろとコメントするところはあるような気もするけれど、そんなことはこの際良い。

私は家の近くの細い路地で光るBB弾を拾い集めてた時のことを思い出したりして、エモッて思いました。
こんな時期だからこそ色んな子供に見てほしいなあと思いましたとさ。
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