鮭茶漬さん

21ブリッジの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

21ブリッジ(2019年製作の映画)
4.0
久々に骨太なハードボイルド映画を観た気がする。ネオン輝く深夜のマンハッタンで繰り広げられるクライム・サスペンス、これだけでも高揚感が半端ない。

映画冒頭でチンピラによる麻薬強奪事件で銃撃戦となり、複数人の警官が射殺される大惨事の様相を呈し、一気に緊張感が走る。警察は、犯人を逃さないためにも、マンハッタン島を繋ぐ21の橋を封鎖する大胆な手に出る。封鎖された島の中で犯人を追い詰めるのは、トントン拍子に事が進み事件も容易に解決すると思いきや、不審な点が幾つか浮かび上がってくる。事件の裏にうごめく巨悪の存在が見え隠れする不穏さ、それをチャドウィック演じる主人公の刑事と、犯人の視点とを交互に描きながら、真相に近付いていく緊張感の途切れない感じで駆け抜ける様が見事だった。(この犯人が実はちょっと良識あるというのもポイント)

BLMを経た今だからこそ警察権力を問い、正義を問わざるを得ないテーマ性に説得力が増す。そのリアリティが胸に響く。誰よりも黒人の権利向上にひたむき合った俳優と言って過言ではないチャドウィックが製作も務めた意気込みからしても、この映画が持つ意味合いは大きい。どうしても彼といえば『ブラック・パンサー』のイメージが強いだろうが、フィルモグラフィを思い返せば……

まず、世間に名を知れ渡らせた2013年の『42 世界を変えた男』で、黒人初のメジャーリーガーに扮し、翌年2014年では『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』ではソウルの帝王を、2016年は『マーシャル 法廷を変えた男』で黒人初の連邦最高裁判事を熱演。常にアメリカの歴史の中で欠かせない黒人の偉人を演じ、黒人の偉大を世に示してきた。
『グリーンブック』がオスカー作品賞を獲った際も、黒人差別を謳った作品ながらも、壇上に上がったのが白人ばかりの光景を見て、チャドウィックが後部の座席を見て、呆れた表情を見せたことも当時話題になった。根本的な意識改革を彼は求めていたのだ。その信念たるや、黒人俳優としてシドニー・ポワチエ、デンゼル・ワシントンに匹敵するものを感じる。

前から警察嫌いだったというチャドウィックだが、本作では警察を「人として演じてみたかった」とインタビューで答えている。実際に、演技指導に当たってくれた警官の人間性に触れたことで(彼の誕生日パーティにも顔を出してくれたとか)警察内部の希望を主人公に投影することが出来たのだろう、劇中の主人公から感じられる疑いようのない純真潔白なヒロイズムは、MCUのヒーロー以上に血肉が通っているように感じた。彼がこの作品を残してくれたことに感謝したいくらいだ。

100分という調度良い尺の映画であったが、そのメッセージ性はひたすらに強く、チャドウィック最後の主演作として、彼の人生を讃えるには十分な作品と言って良いだろう。ちなみに、再来週に発表されるアカデミー賞では『マ・レイニーのブラックボトム』で、主演男優賞にノミネートされている。お悔やみの同情票なんか不要だ、しかし、彼の圧巻の演技に多くの票が集まり受賞することを願っている。

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