平野レミゼラブル

21ブリッジの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

21ブリッジ(2019年製作の映画)
3.9
【封鎖と銃撃から成る緊迫の二重奏。泥(ダーティ)に塗れても正義は見失うな!】
惜しまれつつも昨年若くして亡くなったチャドウィック・ボーズマンの主演作。遺作は『マ・レイニーのブラックボトム』とのことですが、こちらはネトフリ配信限定なので、劇場で観ることができる最後の主演作はおそらくこちら。
『アベンジャーズ』シリーズのルッソ兄弟も製作に名を連ねるポリス・サスペンス・アクションでして、大量のコカインを盗み8人の警察を殺してマンハッタン島を逃げ回る2人の強盗を追いかけるために、島に繋がる21の橋を封鎖!交通ラッシュとなる夜明けまでの数時間で2人を追って捕まえなければならないという時間制限の仕組みでハラハラさせ、99分というタイトな上映時間で銃をぶっ放しまくり&状況転じまくりで非常に見応えがあります。

深夜1時とは言え21もの橋を封鎖するとあれば、そこに絡めたゴダゴダも当然フィーチャーされるかと思っていたのですが、そこは驚くほどあっさりと封鎖。その為、物語に停滞はなく、非常にスピーディーに話が進みます。
こういう割と大それたことをしれっとやってしまう為、意外に物語自体はこぢんまりとしています。雰囲気としては午後ローで放映されている昔のイーストウッド作品とか、もっと言ってしまえば相棒2時間スぺシャルが近しいかな。両方ともお昼にだらっと流している共通点がありますが、だらっと観ていたら思いのほかシャッキリしたくらいには「面白いじゃん!」ってなる感じ。

実際、不思議と大味って印象は全くないんですよね。あくまでコンパクトにまとめる為のスピード感というか、物語を面白くする為の必要処置だったように感じます。
さらに言うと、この緊急封鎖までの流れがあっさりだった理由っていうのも後から何となく察せられるようにはなっているので、細かいところ含めて丁寧な作りであるってことは間違いないかと。

アクション部分に関しても丁寧でして、室内で度々警察と強盗による銃撃戦が発生するのですが、その際に両陣営とも物陰に隠れながらの制圧と突撃を徹底している。単純にドンパチすることはまずなく、しっかりクリアリングしながら進んでいく。明らかにテンポを重視した物語構成なんですが、こういう細かい部分は怠らないので緊張感が持続します。
数で劣る強盗は巧く隠れたり、場合によっては変装するなどしてやり過ごしつつ警察の裏を掻こうと必死ですし、それを追う警察側もいつ奇襲されるかわからないスリルが溢れる。


そして、チャドウィック・ボーズマン演じる主役のアンドレ・デイビス刑事のキャラクターが秀逸。同じく警官で強盗に撃たれて殉職したアンドレの父親の葬儀から物語は始まり、次いで成長して警官となった彼が査問委員にかけられるシーンが挿入されます。
優れた父親の業績に追い付くため、アンドレは遮二無二奔走して実績を上げてはいたのですが、同時に9年間で8人の犯人に発砲、うち3人は射殺という強引な捜査姿勢を問題視されていたのです。
査問の中でもアンドレは自身の行為を「全て正当なもの」と回答しており、今後も同じ状況であれば躊躇なく発砲すると宣言するなど、その正義の在り方はどこか危うげに映ります。この冒頭の自己紹介で「アンドレは復讐心に駆られて、警官殺しの犯人達を撃ち殺すのでは?」という疑心を生ませ、続く物語で常に緊張感を漂わせて展開させていくのが巧いです。

そんな『ダーティハリー』的なキャラ付けをアンドレに施したことが、実は物語全体の構造を誤認させる仕掛けになっているのもスムーズです。
アンドレに感じる危うさというのは、仲間を殺されて躍起になるニューヨーク85分署の署長(J・K・シモンズ)や、捜査に介入してくるFBI捜査官からも同じく感じられ、倫理と正義の所在の確認は警察全体の問題へと波及していくのです。
アンドレとバディを組むことになるシングルマザーの麻薬捜査官(シエナ・ミラー)が投げかける言葉と行動の転換も含めて見えてくる物語の落としどころまでもがスムーズで、本当に手堅くまとまったポリスムービーになっていましたよ。
確かにダーティな側面は持ち合わせているのですが、それでも正義に対しては真っ直ぐ見つめるチャドウィック・ボーズマンの眼差しも含めて魅力的な作品です。

オススメ!!