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火口のふたりのsのレビュー・感想・評価

火口のふたり(2019年製作の映画)
3.0
filmarksオンライン試写会にて

従兄弟同士、元恋人同士という危うく脆い愛と性欲と富士山の話。男女の違い、性に対する考え方描き方はやはり荒井晴彦監督という感じ。
登場人物はふたりだけで食べてセックスして寝るだけ。ただそれだけの営みの繰り返しなのだがその様子を観ているとたまにグッとくる瞬間がある。
あと4日、あと3日と、残された日々の中の限られた時間を二人はセックスに充てる。帰宅後、スーパーで買ってきた食材を冷蔵庫へしまおうとする直子の手を奪い、そんなの後でいいよとベッドへ引きずり込もうとするシーンなんて、もう愛し合いの絶頂期にいる恋人同士のあれだ。映画の冒頭、モノクロで撮られた若き二人の過激でアブノーマルなセックスの写真たちはなんだったのだろうと思うくらい、画面上で繰り広げられらるのは真面目で健全な普通のセックス。「身体の言い分」だけを聞く生活を送っていたらもはや人間味なんてものは失われ欲にまみれたただの獣になってしまうし、二人はその狭間で溺れかけている。でもこの二人はそれでいいというか、それが一番いいのだろうなと思う。
最後の夜に二人が訪れたのは秋田の有名なお祭り、西馬音内盆踊り。踊り手が顔がすっぽり隠れる頭巾を着用しているため、性別がわからないというエロティック。別名、亡者踊りとも言われ、暗闇の中を死とエロスが彷徨う。かつて相米慎二もこの祭りに魅了され、それを聞いた荒井晴彦はこの盆踊りのシーンを作中に入れるために舞台を原作の福岡から秋田に変更したらしい。道の横断途中で画面が3秒くらい止まり、あたかも二人がこの祭りの渦に取り残されたかのような瞬間がありとても印象的だった。

memo:
セルジュ・ゲンズブールの曲で、「La noyée ノワイエ(溺れるあなた)」という歌がある。人生の10曲に入るくらい好きな歌で、その歌詞が驚くほどに二人の姿としっくり重なる。
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