垂直落下式サミング

AI崩壊の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

AI崩壊(2020年製作の映画)
2.8
わりと早い段階で、ラストの大逆転劇の方法におおよその目処がたつのはいかがなものか。孤立無援で誰にも頼れない状態の主人公が、窮地にたたされ追い込まれていく過程がうまく描けていないので、『北北西に進路を取れ』『君よ憤怒の河を渉れ』など、タイトルの圧が強めな逃亡者もの映画のスリリングさを求めると見劣りする。AIが崩壊するっていうのに。
じゃあSF設定は固いのかというと、こちらも練られていない。ここで描かれるAIが管理する未来社会の構造には、ほとんど共感できない。
現代をいきる我々観客が、ほんの少しでも肩入れできるような利便性よりも、一括管理システムによって物事が自働化・高速化されたゆえの不安ばかりが最初から目の端にちらつくようでは…。
有用なシステムが敵にまわることで、今までそれによって理想的な運用をされていたサイクルに綻びが生じ、すべてが裏目に出ていくようなAI崩壊を期待したが、本作はハナっからロクなことにならなそうな雰囲気がただよっている。
AIは、国家に対する貢献度の低い人間を殺そうとするのだけど、ちょっと待ってほしいな。国民の数が減った方がいいとか、そんなわけなくて、それはそこらへんのバカなディストピアSFに書いてることだ。
だって、普通に考えて国民国家を維持するためには人口は増えた方がいい。少子化が進んでいてたいへんだってのは解決したのだろうか?
バカだろうが、年寄りだろうが、子供だろうが、障害を持っていようが、どんな人も受け入れるのが国家と言うものの在り方で、システムとはそのシンプルな前提に忠実であろうとするはずだ。そこを逸脱すんのは、ちょっと厳しすぎ。能力の低いやつを切って集合体を維持しましょうは、国家ではなくて株式会社の理論だよ。
ストーリーは殺伐としていたけど、警察のAIはめっちゃポンコツで癒しだった。アイツのうっかりで自分に前科付いちゃっても許せちゃうかな。そんなレベルのドジっこ。
そんで、三浦友和の刑事は、なかなかの熱血。青島刑事が歳を重ねたらああなりそう。心の無さそうなAIのはなしのなかで、いちばん人間性丸出しで頑張っているから、彼が出てくると安心する。これなら、現場原理主義も悪くないと思う。