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黒人魚のhorahukiのレビュー・感想・評価

黒人魚(2018年製作の映画)
3.1
美女と人魚どっちを選ぶ?
結婚前夜に、美女を家に残して別荘で仲間とワイワイやってた彼氏が人魚に誘惑されてキスされちゃうホラー映画。

未体験ゾーン2019公開作です。
作品云々よりも最悪だったのは、本編始まってんのに電話で話してるやつがいたこと。しかも相手の声まで聞こえてくるし、「始まるから切るね」とか言ってるわりには全然切らないし。どんだけ緊急の要件なのかと思ったら、ママに今映画館に着いて席に座ったって言ってるだけ。劇場の外でやって。

一昨年のホラーバトルウィークスでロシア代表作品だった『ゴースト・ブライド』の監督脚本作ということで、全く期待してなかったんだけど、思ってたより面白かった。

結婚前最後の羽目外しの時に出会った女性により体調が悪くなるというのは、カナダの鬼才 溺殺魔チャドアーチボルド監督作『THE BITE』の男性版のような印象を受ける。さらにその場所で過去に母親が亡くなっており、彼氏にとって母を感じさせる場所かつ湖というこれまた母親を思わせるイメージが重なり、人魚の姿を借りて、妻と母という2人の母性の間で揺れる男性の心情を表現したのかな…と途中までは思ってました。

人魚なのに湖というのは意外に思いましたが、原題にもなってるルサールカを意識した故の湖なのかと納得。森や沼はルサールカの伝承・信仰をもつスラヴ人にとっては不安や疑惑をもって恐れられている地形だということなので、本作の湖が濁って薄暗いのもそういった理由からなのでしょう。それを考慮すると、本作はまさに結婚前に羽目を外しに行った彼氏に対する不安と疑惑の物語であり、その疑惑をもたらすのが、スラヴ人にとっての疑惑の象徴である森の中の湖というのはわかりやすくて良い。

森に囲まれた湖には常に霧が立ち込め薄暗い。そして緑がかった照明?で照らすことによる幻想的な空気感が素晴らしく、頼りない桟橋の先端に立つこれまた頼りない街灯がノスタルジーを感じさせ、その場で亡くなった母親へと思いをはせる彼氏の心情ともリンクした良い舞台になっていたように思います。

そういった表現からも、結婚前の女性が相手の男性に抱える不安は外部の女性に彼を奪われることだけに限らず、母親という圧倒的母性への畏怖が非常に重いウェイトを占めているのだという考えが本作の根底にはあるように思います。だからこそ、全く別の存在である人魚と死んだ母親がリンクして描かれているのではないかと思いました。そして「死」というものが相手を神格化し、絶対的存在となったそれが呪縛として付き纏うという救いのない愛の形には寒気がしました。

そんなに褒められる作品でもないと思うけど、割と良かったんじゃないですかね。当時全くハマらなかった『ゴースト・ブライド』ももしかしたら面白かったのかもしれませんね…。
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