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眠る村のkyokoのレビュー・感想・評価

眠る村(2019年製作の映画)
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昭和36年、三重と奈良にまたがる葛尾で起こった「名張毒ぶどう酒事件」
妻と愛人との三角関係を清算するためという動機があったとして逮捕された奥西勝は、犯行を認める供述から一転無罪を主張。一審では証拠不十分として無罪判決が下ったが、高裁では「自白は信用に足る」として死刑判決がくだされ、そのまま確定。再審を求め闘い続けたが、平成27年、病気のため帰らぬ人となった。

継続して事件を追ってきた東海テレビによる映画化は三度目。
新証拠の検証もせずに再審請求の棄却を繰り返す裁判所への疑問はもちろん、今作では当時を知る村人にもアプローチをかけている。
村人も裁判所と同様、早くこの事件が終わって欲しいと思っている。それでも事件から57年が経過して、当時ころころと証言を変えた人たちも、今だから話せることがあるのでは?という東海テレビの期待は、やんわりと打ち砕かれた。「奥西が犯人」の上でバランスを取って生きてきた人たちにとって、死者の名誉より村の和のほうが大事なこと。このまま穏やかに過ごしたいと思うのは当然なほどにみな年を取ってしまった。


妹さんの家にある奥西勝の遺影は、無罪判決直後の記者会見時のものだった(なかなかの男前)。
棺に納められた姿が映し出されるまでの、54年間の彼の顔は一枚の写真になることも許されず、我々も知ることができない。
人生を奪われるとは、そういうことだ。


死刑制度について議論するのも大事だけど、まずはいかにして冤罪をなくすか、が先だと思う。
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