やはり80年代のホウ・シャオシェン作品に見られる、小津安二郎と清水宏とエルマンノ・オルミを混ぜたような雰囲気はとても心地良いけど、それが特に顕著に感じられるのがこの作品だろう。
自然体で生き生きと、それでいて静謐に描かれる主人公とその家族の姿は見ているだけで心穏やかになるが、それ故に事件が起こると見ている側もいたたまれない気持ちになってしまう。
そんな彼らの暮らす田舎の家並みや草木、空の蒼も本当に長閑で美しく、自分の中では風景の美しさに泣ける映画(小津の麦秋やエルマンノ・オルミの木靴の樹等)こそ至高という考えがあるのだけど、この作品もまさにそんな映画の一つ。
90年代中頃から作風を変えてしまうものの、この頃のホウ・シャオシェンは台湾の小津と言える素晴らしい撮影と空気感の作品を作り出して本当に素晴らしく、覗いているだけで150分あっという間に経ってしまうから驚嘆する。
できればホウ・シャオシェンにはもう一度原点回帰を図ってこうした小津らの作風を踏襲した作品をまた作ってくれるよう切望する。