菩薩

童年往事 時の流れの菩薩のレビュー・感想・評価

童年往事 時の流れ(1985年製作の映画)
5.0
砂埃で薄汚れた白いシャツに半ズボン、短く刈り上げた坊主頭に裸足の足元、彼等はおそらく一様に金銭的な貧しさを抱えているのだろうが、笑顔を輝かせながら走り回るその姿に、一切の精神的貧しさは見つけられない。病弱の父を抱えひたすら強くなろうとした少年時代、道端での喧嘩ゴマはそのまま路地裏でのストリートファイトへと姿を変え、小さく細かった彼の体は、しっかり頑丈な筋肉で覆われる様になる。父が死んだ日の忘れ難き母の慟哭、母はその声を守る為に自ら死を近づけ、声なき声を漏らしながら体内の毒を吐き続ける。父が死に母が死に、残された祖母もある日突然事切れた、畳の上で最期を遂げた骸、その手の甲をちょこまかと蟻が這う。初恋と呼ぶには拙いささやかな恋心、意を決した告白の末の返答は、彼に強さ以上の賢さを与えた。精通を果たしたって、童貞を捨てたって、背伸びをして悪ぶったって、死別の悲しみを知ったって、少年は大人になんかなれない。優しさを知り、他者の犠牲を知り、人に感謝される喜びを知り、そうして少年は大人になっていく。父よ母よ、兄よ姉よ、あゝ夢よ良き友よ、これは少年時代への惜別の歌、青年時代への感謝の歌、そして未来の自分に向けての餞の歌である。
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