イライライジャ

マッスル 踊る稲妻のイライライジャのレビュー・感想・評価

マッスル 踊る稲妻(2015年製作の映画)
4.0
邦題とポスターからは想像出来ないかもしれないが私は嗚咽で息が苦しくなるほど号泣した。
いい加減“踊る”などをつけて面白おかしくしないでほしい。本国版ポスターは全くカラフルではないし、原題も『 I 』。
いまだに間違えてる人大量にいるけどボリウッド映画じゃなくてタミル映画ね。ボリウッドは北インドのヒンディー語映画のこと。そんな細かいことどうでもいいと思う人多いかもだけど言語も文化も楽しみ方もボリウッドと異なるから重要。

冒頭で怪物のような男に攫われる花嫁のシーンから始まる。この時点でこの物語に起こる悲劇を想像させられる。
シーンは変わり、ボディビルダーの主人公がボディビルの大会で優勝し、妬みでゴリゴリマッチョたちに襲われる。ムキムキ雄ッパイをピクピク動かして威嚇(音付き)するマッチョ連中だが、主人公はマッチョを一網打尽にする。
主人公はCMに出演している女優ディヤーのファンだが、いろいろあって共演することになる。

ラブロマンスを思わせる前半だが、随所に怪物男が人を燃やしたりなどのシーンを挟んでくる。まぁ誰かどう見ても主人公なのだが、何故そうなったのか?についてはかなり後半になるまで明かされないため、ロマンスと復讐を同時進行で観ることとなる。
主人公の醜い怪物っぷりと、尋常じゃない復讐方法を最初から見せてしまうのは、のちのショッキング度合いが下がってしまうので少々勿体なく感じた。
だが、おそらく本当に観せたいのは美醜に捉われぬ愛の在り方。
『美女と野獣』は恋した野獣は美男に戻り、『シェイプオブウォーター』は愛した怪物は怪物のまま、本作は恋した美男が怪物へと変貌するので最も愛が試される。

主人公への仕打ちは胸糞悪いのだが、復讐パートで全てスッキリ出来る。あんまり日本人からしたらスッキリしないようだが、インドこそ「目には目を」な考え方が多く、悪い奴に慈悲を与えずとことん懲らしめるのはインド神話でもよくある話。

ちなみに「これが男女逆なら成立しないんじゃ?」とちらほらレビューにあるが、もちろん映画大国なのですでにある。私が観た中ですら、恋した女性がアシッドアタックによって顔が認識出来ないようになっても愛し続ける映画があったし、おそらくたくさん存在するはず。

格闘シーンは無駄に長いが、南インド映画は主役をスーパーヒーローのような存在として観ている傾向にあるので、理由なく強いし悪党を懲らしめるアクションシーンが多い。スローモーションは多分そこで歓声を上げたりするための“タメ”なんじゃないかと思うので、敵が倒れるときや敵に攻撃がヒットしたときに多用されがち。

主演のヴィクラムの演技が素晴らしかった。ボディビル・モデル・怪物、と全て完璧に演じ分けていてお見事。99年のデビュー作『セードゥ』ではドン引きするほどのえげつない役をしていたが、他作品も障害者や多重人格などなかなかハードな役が多いらしい。
本作は当時50歳くらいなので少々モデルをするには老けすぎているのが気になる。それでもかなり美男ではあるけど。

惜しい部分やいらない部分はちらほらあるものの、勢いと圧倒的美術とARラフマーンによる素晴らしい楽曲、そしてヴィクラムの演技力によってかなり満足度の高い濃密なエンタメ作として仕上がっていた。
「インド映画なのにハッピーじゃない」とか文句つける人は、いい加減「インド映画=ハッピーエンド」というあまりにも古い考えを捨てるべきだし、そもそも古い作品もハッピーエンドばかりではないし、たかだか数本観た程度で決めつけるなと心から思う。


私好みの素晴らしい映画だった。