優しいアロエ

アスの優しいアロエのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
4.6
〈それは黒人に限った話ではない〉

『複製された男』?『シャイニング』? それとも『アンダー・ザ・シルバーレイク』?いや、襲いかかってくる敵を薙ぎ倒していくストーリーと黙示録的展開はゾンビ映画っぽくもあるし...何だこの怪作は!
——————

姿形のそっくりな“US”。奴らの存在は自分たちにだけ見えている幻想かと思われたが、なんと「テザード」という実人間であった!この突拍子のない設定に不満の声が上がるのはわかる。メッセージを掲げるためにあまりに乱暴な設定にするのは『ゲット・アウト』同様、ジョーダン・ピールの手癖の悪さとも言える。

しかし、メッセージ性や設定以前に、本作は私の好きなもので固められていた。この作品には偶然なことが重なったり、地下に秘密が隠されていたりと、先ほど挙げた『アンダー・ザ・シルバーレイク』さながらの陰謀ミステリーの様相がある。スプラッター描写も満載で、しかもホラーコメディとしても前作ばりに骨太だ。本作はジャンルものとして極上の作品ではないか。

一応、“US” は「同じ人種間での格差」を表しているのだと思う。彼らは自分たちのことを「アメリカだ」と形容していたが(US=United States)、確かにこれはアメリカに特に顕著な問題かもしれない。
レーガン政権下あたりのいわゆる「黒人の二極分化」が代表的だ。黒人の間でも貧富の差が生まれはじめ、「白人vs黒人」「黒人=被害者」というそれまでの図式が成立しなくなったのだ。その象徴となるのがスパイク・リー監督についての逸話だ。「90年代アメリカ映画100、芸術新聞社」によると、中流出身のスパイク・リーは『マルコムX』映画化の権利を得るに当たって、「中流の黒人の自己満足だ」と抗議を受けたという。もちろん、こうした分化は黒人以外の人種にも当てはまる。

そして、そんな二極分化による鬱憤がアメリカの奥底に沈殿しているのでは? というのが本作の発想の原点なのである。もちろん本作はこのテーマを隙なく描けているわけではない。しかし、ホラー映画が社会派なテーマまで完璧に描き切っていたらそれこそコワイし、ホラーというジャンルでアメリカ社会に風穴を開けようという精神自体がまず素晴らしいのだと思う。