富田健裕

アスの富田健裕のレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
4.6
怖ぉぉぉわぁぁぁー!
出て来る奴ら皆怖ぉぉぉわぁぁぁー!

モンスターパニック、取り分けヒト的な何かが人間を襲うという類の作品群に於いてかなり根源的な所に主題が置かれていると感じ、そうそう!そもそもホラーってそういう所が怖いんだよね!という当たり前だけど、だからこそ麻痺していた感覚を改めて呼び覚まして貰った印象があった。

そもそも、ホラーを見た時に感じる怖いの正体とは何なのか?そもそも自分は何に対して怖がっているのか?と考える時がある。
勿論、後ろから急にワッ!っと来たり、やべー怪物が迫り来る緊迫感や、来るぞ…来るぞ…という緊張感も全てが怖いに集約されるのだけれど、その根底には「怖がっているその人が怖い」というのがあると思っている。恐怖に慄くその人の顔であったり、声であったり、極限に達した時の行動であったり、人物への感情移入も相まって、あんな有様になってしまった人間を見ているという達観の感覚がホラーをホラーたらしめているのではないかと。

そういった意味で、襲って来る奴らも襲われる奴らも自分たち、怖がるのも怖がらせるのも自分たちという本作は、広義的に人間が怖いというホラーの根源をかなりクラシカルに描いていると感じた。

襲って来る奴らはかなり動物的で言葉を発する事も無く唸るばかりではあるのだが、彼ら彼女らが実は変貌を望んでいるんじゃないかと少しずつ分かって来たあたりで不思議な悲しみに襲われ涙腺が緩みそうになる。
自分たちが普段当たり前の様に取っている行動を、取りたくても取れない人間たちがいる。いざその行動が取れるとなった時に、とことん大事にその行動を取ろうとする人間たちがいる。取れる様になったら、もう二度と取れなかったあの頃には戻りたくないよね。
はてさて、人間らしいのはいったいどちらなんだろう。
監督を初め作り手は、現在のアメリカ社会に対する風刺がかなり強いのだろう。移民であったり貧富の問題が、襲って来る言わば「敵側」からひしひしと伝わって来る。

監督がコメディ畑の出身ということもあり、ああいった状況に立たされたからこそ表出してくる人間の滑稽さもちゃんと描いている。だからこそ怖さが際立つ。

全てを観終わった後に、序盤から細かい伏線が綿密に張り巡らされていたんだと実感する。余韻が新たな印象を産み、作品が自分の中で深みを増して行く。
秀作とはこういうモノのことをいうのかもしれない。
あくまでも好みの話だけれど。

作品のオチに関しては、あそこまで説明する必要があったのかどうか。
ある程度、観客の想像に委ねても良かったんじゃないかという印象も抱く。
ただ、あのオチによって恐怖も悲しみも確実に増すことも事実で。


自分の持つ二面性に驚愕する事が度々ある。
昨日まであんなに楽しくて饒舌だったのに、朝起きて何だろうこのテンションの低さは…と。
昨日までの自分はいったいどこへ行ってしまったんだろうと。
明と暗だと括ってしまうのは少し乱暴かもしれないけれど、暗たる時は日常の細かい所にまでストレスを感じがちになる。明たる時は気にもならないのに。
暗たる部分は常にストレスを抱え込み、明たる部分が前にいる時にはそっとそのストレスを抱えたまま心の隅っこに腰を降ろしているのだろうか。
そう考えると、暗たるお前が不憫でならない。
富田健裕

富田健裕