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アスのblacknessfallのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.7
公開されてすぐに映画館で観てるんだけど、その時はうまく纏まらなくてアップしなかったんだよ。
家で再鑑賞して少し言語化できそうなので笑

監督のジョーダン・ピールは前作ゲットアウトが話題になり人種差別の異常さをホラーに巧みに結びつけて高評価を得た。

自分的にはホラー描写が詰めが甘くてノレないとこもあったけど、白人の嫌らしい選民意識と黒人への歪んだ愛憎を端々に画いた脚本や人物描写にはかなり衝撃を受けた。
この人は何か言いたいことありきで映画撮るホラーではあんまいないタイプの監督だな、と。

アスもゲットアウトと同じで主人公は黒人だけど、テーマは人種差別ではなく経済格差問題。

中産階級の豊な一家に自分達とまったく同じ姿の者達が襲いかかってくる。
この現象は全米各地で発生してる。主人公達の知り合いの家族も同じ姿の者達に襲われ、家を乗っ取られる。

まず、この"同じ姿の者達"の佇まいがすごい!同じではあるんだけど、眼に怒りと悲しみを宿してるものの表情はなく死顔のように見える。
話し方も独特、やたらと圧し殺したしゃがれ声を発する、口調もかなりぎこちない。まるで異星人が人間を演じてるように。
ハッキリ言うと不気味で得体が知らなくて怖いんだよ笑

何処から来て、何が目的で自分達を襲うのか?そして何故?自分達にそっくりなのか!?

この辺の恐怖と混乱はとってもダイレクトに刺さる。
構図やカメラワーク、人物の動き全てが恐怖させることに集約されてる。
"ゲットアウト"で瑕疵になってたホラー的な演出が今作はしっかり機能してる。

そうなると次はテーマになるんだけど、これがガチッと提示できたかと言うと微妙な気がした。

この"同じ姿の者達"はある意図の元に作られて、主人公を襲いにくるまで途轍もなく過酷な環境で飼殺しにされていた。
主人公達が豊な人生を謳歌してる間。
運命が違えば豊に暮らせたのは自分達の方だったかも知れない。
また、過酷な環境で飼殺されたのは主人公達の方だったかも知れない。

そんな設定になってる。要するにどこに生まれたかで環境が規定されてしまう、格差社会のメタファーになってる。

伝わることをは伝わるんだけど、かなりセリフで説明してる感じして少しくどさを感じた。

"同じ姿の者達"はいつも手を繋いでいるんだけど、これはアメリカで80年代にあった"ハンズ・アクロス・アメリカ"っていう社会運動が元になってる。
手を繋いでアメリカを繋ごう、貧しい人達に手をさしのべようって趣旨の運動で、盛上ったけど結局実を結ばず挫折した。
ジョーダン・ピールはこの運動の挫折を題に取り、持たざる者を置去りにしたままのアメリカを告発してるんだと思う。

ハンズ~のこともチョロっと挿入してるし、分かりやすく手も繋がせてるから、もうこれだけでテーマは充分伝わると思うんだけど、不安だったのか?説明がくどくどしくて雰囲気を壊しちゃってるかなって思った。
なんか勿体ないなぁ、みたいな、、笑

でも、駄作じゃないし、何せよホラーの娯楽性を最大限に利用して己の問題意識を映画に刻み込む試みは評価に価する!

ジョーダン・ピールはこの路線で大傑作を物にすると思う、いずれ。
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